10話 同居人ガチャ外れたのでリセマラさせてください

 ルーン魔法学園は全寮制である。

 国の外からも通いたいという人間がいることもあり、学業に集中できるという理由でこの方式らしい。

 そして生徒同士で交流し今のうちに頼れる仲間を作ることも目的の一つだとか。

 実際学園生同士で仲良くなったまま共に就職したり、バディを組んで仕事をしたりということもよくあることと聞いた。

 それは良い。同居人と仲良くなってそのまま悪友とか俺も憧れないこともないし。

 それは良いんだ。全寮制ということに不満があるんじゃないんだ。

 問題は二段ベッドの下の方で寝てるこいつだ。


「ぐごぉぉおお……ぐがぁぁあああ……」


 いびきがうるせぇ。二日目の時点でもうグロッキーだ。

 一睡もできる気がしないぞ。


 一応前日に先生に言ったんだよ。

「同居人のいびきがうるさすぎるので部屋を変えてください」ってな。そしたらなんて言ったと思う?


「そのくらい我慢しなさい」


 なめてんじゃねーぞ。「対応が面倒くさいです、私の仕事増やさないでくださいどうせそんなことしても私の給料変わらないのだから」って素直に言ったらどうなんだこんちきしょー。

 

「むにゃむにゃもう食べられないよぉ……」


 テンプレートな寝言言いやがって。決めた。こいつ殺す。

 よくよく考えたらどうして魔王になるべき人間がこんな不届き者を許してやらねばならんのだ。

 そうと決まれば殺人計画を練らなくては。

 俺は独自開発した収納魔法を使い魔王計画書を取り出す。

 ミニ光魔法で照らし羽ペンを持ち計画を書き始めた。

 レーヴァテインでぶった切ってもいいがこのタイミングでそんな凄惨な事件を起こすのは面倒だ。

 殺すならクールにだ。凶器はこの果物ナイフ。殺した後に収納魔法でナイフを隠せば証拠はなくなる。

 残念ながら人を一人隠すことはまだできないから死体はどこかに隠す必要がある。

 だがそれさえ乗り越えれば完全犯罪。突如姿を消した人間。これなら調べようもない。完璧だ。


『スルト、何してるんだ』


 カゲヌイが影から出てくる。


『黙っていろ。俺様は今は華麗なる計画を練っているのだ』

『そうか』


 カゲヌイは部屋の端におかれているクソデブの夜食を二つ程奪い取り貪ったあと、猫の状態でグースカ眠りこけている。呑気なものだ。俺は真下にいるこのデブのせいで安眠が損なわれているというのに。まぁそれも今日までだ。絶対に許さん。


 ――俺がこのクソデブを殺すと心に決めた時、壁に立てかけてあったレーヴァテインが怪しく赤く光り輝いたことに俺は気が付くことはなかったのだった。


****


 俺は次の日の夜、同居人暗殺計画を実行に移した。

 デブが夜中にトイレに行こうと寮の廊下を歩きだした時、俺は好機と思いあとをつける。

 そのまま後ろから音もなく近づき、瞬間移動のごとき速さで心臓を一突きにした。


「うぅっ……!」


 そしてデブはそのまま地面に倒れこんだ。

 我ながら完璧な仕事だ。魔王としての才能だけじゃなく暗殺者としての才能もあるんじゃないだろうか。ナイフはもうしまったし後はこの死体を――


「お前、そこでなにをしている」


 何っ!?気づかれた!?

 こんな時間に人が出歩いているとは……!

 くそっ早くこの死体を運んで隠さなければ……

 お、重っ!少しくらいダイエットせんかいこのデブがっ!自分が殺された時に殺人犯が死体を運ぶのに苦労しそうだなとか考えないのか少しは気を遣えっ!!

 俺は急いで死体を紐でぐるぐる巻きして自分の体にくくりつけるが、そうしてやっと背負えるほど重かった。

 俺は身体強化魔法を発動し超速で寮の廊下を駆け抜ける。


「ま、待て!」


 外に出た俺はよじよじと壁を登り寮の屋根の上へと移る。

 まずいな、どうしよ。とりあえずは早急にこの死体を隠さなければ――

 そう思っていると目の前に瞬間移動のように着地してきた人影があった。

 黒いコートをして黒い仮面をつけた、本物の暗殺者みたいだ。

 寮の治安を守るための特殊隠密部隊がいたなんて考えもしなかった。

 何あいつ、屋根まで追いかけてくるか普通。


「そいつを寄こせ」

「断る!」


 こいつを取られると俺の悪事が知られてしまうじゃないか!

 そんなの魔王として美しくない。俺は屋根の上を全速力で駆け抜ける。


「ま、待て!」


 後ろから凄まじい速さで追いかけてくる音が聞こえるができるだけ振り返らないようにして走り続ける。


「どこへ行った……!?」


 息をひそめて建物の影で隠れる。

 屋根の上でさっきの治安部隊が俺の居場所を必死に探している。


 くそっ、このままだと気づかれるのも時間の問題だ。俺の開発した収納魔法はまだ人ひとりは仕舞えない。机の引き出しくらいの大きさの空間しかないのでノート一冊分がやっとだ。

 一旦死体を捨てていくしかない。このまま奴に渡すよりはマシだ。

 俺はすぐそばにある建物の窓を開けてデブの死体を放り込む。

 ここはどこかは分からないが今はひとまずこうするしかない。

 俺はその後全速力で寮へと戻った。

 万が一俺が寮にいないことが気づかれれば真っ先に俺が疑われる。少なくとも俺は今日寮から出ていない!そう主張せねば……


****


 スルトが寮に戻った後。

 屋根の上でスルトを追いかけていた隠密部隊(仮)


「くそ……なんなんだあいつは……!どうして俺たちの誘拐計画を知っていたのだ!?まさかあの学園生が『暴食』スキル持ちであることも知って……!?」

「カイン」

「……何の用です」

「誘拐計画は中止だ。阻止されたということは情報が漏れていたということだ。そのことを上に伝え早急に対策を練る必要がある」

「しかし任務は……!」

「今は任務よりも組織の防衛と機密保持の方が優先だ。分かったら行くぞ」

「……くっ」


 怪しい恰好をした男二人はそのまま闇夜の中に消え去った。


****


 翌日。

 俺は部屋に戻ってきた瞬間疲れがでてしまいそのまま速攻で寝てしまった。

 そして目が覚めた時にはすっかり朝が来ていた。

 更に入学式当日だ。まずいぞ。このまま事件が露呈したら俺の学園生活と魔王計画が……

 憂鬱な気分だったが仕方がないので着替えて準備して校門に向かった。


 校門で待ち合わせていたメアが俺の顔を見て心配そうな表情をしていた。


「どうしたの?スルト。顔が怖いよ」

「いや……なんでもない。気にするな」

「そういえば聞いた?昨日の事件の話」

「うぐぅっ!」

「ど、どうかした?」


 もう昨日の事件が表沙汰になっているのか!

 くそっ、邪魔が入ったとは言えもう少し慎重に動くべきだったか。

 しかしここで動揺しては俺が犯人だと疑われてしまう、平静をよそおわねば。

 俺は咳払いをするといつものクールな表情にしてモードを切り替える。


「な、なんでもない。その、事件とは……?」

「なんかね、ふくよかな学園生の男の子が夜中に食糧庫に侵入して、食べ物を食べつくしちゃったんだって。先生からこってり絞られてしばらくの間停学になったとか」

「……え?」


 あれなに、あいつ死んでなかったの?

 刺し方が甘かったかな。そういえば脂肪厚かったし通らなかったのか?

 というかあいつを投げ捨てた建物は食糧庫だったのか。

 てか一人で食糧庫の中身を食べつくすとか……どんな腹してんだ。

 ま、まぁ……ここは前向きに捉えるとしよう。結果的には同居人ガチャが外れたのを帳消しにできたんだしな。


「そ、そんなことよりこれから入学式だろう。早く行こうぜ」

「うん」


 俺の魔王になるという偉大な野望の第一歩となるこの日に、遅れるなんてことはあってはならない。

 過ぎたことは頭の隅に投げ込んで追いやり、これからのことを考えよう。魔王は小さいことでくよくよ悩んだりしないしな。うん。

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