9話 心臓に悪いからサプライズするなら事前に言っておいてほしい

 王都に向かう当日、前日に村をあげて盛大な送別会をしてもらい、宴会疲れも取れぬまま俺は王都に向かう馬車のある場所に向かっていた。

 するとメアが馬車の目の前に立っていた。


「どうしたメア。わざわざ見送りに来てくれたのか」

「違うよ」


 違う?どういうことだ?

 わざわざここまで来ることにそれ以外の理由などあるのか?


「私もついていくから」

「そうか」


 …………ん?


「ごめん、今なんて?」

「私も通えることになったの」


 いやいや昨日の送別会の時点で言っておけよそんくらい。

 というか魔法学園に通うのってそれなりの手続きが必要だと思うのだが。

 これまでずっと俺にだけ隠していたというのか。

 魔王とはいえ泣くぞ。


「参考までに聞くがそれはいつ決まったんだ」

「スルトが魔法学園に通うって言った後すぐにお父さんに頼んだからその時かな」


 おいおいおい、5年前だぞ。

 いくらでも俺に言えるタイミングがあるはずだろ。

 どうして教えてくれなかったんだ。


「驚かせようと思って」


 そのためだけに5年間も黙っていたというのか。

 サプライズ好きすぎだろ。

 なんでそういうところだけ俺の悪スキルを引き継いでいるかなぁ。

 なんか前世で俺だけクラス会誘われなった時のことを思い出して本気で泣きたくなってきた。

 俺、実はメアに嫌われてたりしないよな。


 しかし耐えるのだ。魔王は仲間外れにされたくらいで泣いたりしない。

 何故なら魔王とは常に孤独なものだからだ。


「私もスルトほどじゃないけど魔法使えるし。それにあそこ魔法学園と言いながら騎士の養成もしてるでしょ。護衛として剣術を学ぶ人なら一緒に通わせてくれるんだって」


 まじか。知らなかった。

 ……まぁいいか。メアにも俺の配下として俺の学園内での計画を手伝ってもらいたかったしな。


「それじゃ、行こう?」

「わ、分かった。でもちょっと待ってくれ、トイレ行ってくる」

「分かった。私先乗ってるね」


 俺はトイレに行くことなく馬車の近くに置かれているベンチに座る。

 すると影から一匹の猫が出てくる。

 そう、これはカゲヌイだ。どうやら猫に変化できるらしく出発の際に獣人型から猫モードに切り替わって俺の影に潜ってついてきている。

 これなら万が一姿を見られても怪しまれずに済むだろう。


『スルト、あの女は?』

『俺様の幼馴染だ。そして側近第一候補でもある』

『でも弱そうだ』

『見た目に騙されるとは精進が足りんと言わざるを得んぞ。ああ見えて奴はとてつもない素質を秘めている』


 俺が手放しに絶賛するほどメアの才能には目を見張るものがある。

 まぁ方向性が違うとは言えどカゲヌイにも同じことが言えるのだが。


『ふぅん。戦ってみようか』

『やめておけ。今のお前じゃ勝てん』

『……やってみないと分からないぞ』

『やってみなくても分かることというものがあるのだ』

『……ふん』

『それより、移動中は静かにしているのだぞ。そなたに騒がれては面倒なことになる』

『ご飯さえくれるなら文句は言わない』


 現金だな。ということは俺は定期的にメアにばれないようにご飯を渡さないといけないのか。

 ばれなかったとしても自分の影に食べ物投げ込む変人と思われそうだな。

 色々と懸念事項はありつつも一旦そのことは忘れることにして俺は馬車に戻り乗り込んだ。


****


 ルーン魔法学園がある王都ダングレイは国の北に位置している。この村は南端にあるので馬車でも三日はかかる。スマホもないこの世界じゃ退屈だが景色を見ているだけで十分楽しめるというものだ。我慢して王都への到着を待つとしよう。


「今日も穏やかな空だねぇ。こんな静かな日が毎日続けばいいのに……」

「そうだな」


 話を合わせて同調するが俺は腹の中では哄笑していた。

 遠くない未来この世界で魔王が誕生しこの穏やかな日常は終わりを迎える。

 そう、この俺がこの平穏を破壊するのだ。

 そうも知らずにこの能天気な女はそんなことを呟いていると思うと笑えてしかたなかった。

 ふふ、はははは!


「どうしたの?急に笑い出して」

「……いや、昨日聞いた面白い話を思い出しただけだ」


 しまった、つい笑いが口に出ていたか。

 俺は咳払いをして表情をいつものクールな状態に戻す。


「またいつものか。私の前ではいいけど、これから魔法学園に通うんだから急にそんなふうに笑ってたら怖がられるよ?」


 怖がられるか。願ってもないことだ。俺のことを思う存分恐れるがいい。人間どもめ。

 ――いや待てよ、この場合どちらかというと恐怖よりも絶句の類か。

 それは良くない。俺がイメージしているのは魔王としての恐れであっていわゆる変な奴を見るような恐れを求めているのではない。気を付けよう。うん。


****


 3日たち、巨大な門をくぐり抜けると王都が見えてきた。

 3階建て、5階建てはある建物が並び、道には多くの人や馬車で行きかう。

 時を知らせる巨大な時計塔や、遠くにはここからでも見える王様の住む王城が見える。


「す、凄い……」

「メアは来るのは初めてだったか」


 俺は前に英雄のパレードを見に行ったことがあったので王都には来たことがある。

 というかこのくらいの規模の街並みは現代日本ならよくあるしな。

 田舎にずっと住んでいたメアにとってこの景色は未知の光景に写るのだろう。


「私たち、今日からこんな大きな都市に住んで魔法を学ぶんだね!」

「そうだな」


 メアにつられて俺も楽しみになってきた。

 とっても俺が楽しみにしていることはメアとは全く違うことではあるが。

 ふふふ、本当に楽しみだ。


▼パーティメンバー加入

名前:メア・オーティス

種族:人間

得意属性:風属性

武器:剣

性格:穏やか。

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