8話 魔法学園の学費って相当高いんじゃないだろうか

 腹を決めた俺は両親がいる仕事場まで走っていった。

 俺は普段外でずっと遊んでいる(ことにして森でずっと修行しているのだが)という認識なので仕事場まで来ることは少ないため両親は少し面食らったような顔をしていた。

 俺はすかさず両親に思いを伝える。


「父さん母さん!僕、魔法学園に通いたい!大魔導士になってお金をたくさん稼いで、母さんと父さんや村の皆を楽させてあげたいんだ!」


 我ながら心にもなく歯の浮くような美辞麗句びじれいくを並べたものだと自分で自分に対して呆れかえってしまう。

 とりあえずこんなことを言っておけば断られることはないだろう。


 ――あれ、両親からの反応が無い。怒った?それとも心にも思ってないってバレたかな。

 二人の顔をよく見てみると両目から溢れんばかりの涙を流しており、更には俺のことを抱きしめた。ちょ、暑苦しい。


「なんでできた息子なの……私たちはスルトのその気持ちだけでも嬉しいわ……!」

「分かった!スルト!任せておけ!学費のことは気にするな!こんな時もあろうかと俺たちはお前のために貯めていた貯金がある!いくらでも学んで来い!」


 俺はこうして王都の魔法学園に入学することになったのだった。

 ……いい加減離してくれませんかね。窒息死しそうなんで。


 ようやく両親から離してもらった後。

 たまたま遊びに来ていたメアが俺の話を聞いていたらしい。


「スルトは魔法学園に行くの?」

「あぁ、俺の目標のために必要不可欠なことなんだ」

「そう……なんだ」


 何だ、少し寂しそうだな。

 まぁそれも当然か。

 俺の魔王としての才能を見抜いているはずのメアにとっては俺が魔法学園に行くことはすなわちしばらくの間俺に会えないということだから寂しいに決まっているだろう。

 しかしこれも全て俺が真の魔王となるために必要なことだ。

 優秀な配下ならば笑顔で見送ってほしいものだ。


「…………」


****


 その夜。

 スルトから魔法学園に行くという話を聞いたメア。

 自身の家に戻り、仕事が終わり部屋の椅子でくつろいでいた義理の父親の隣の席へと座り、話しかけた。


「お父さん」

「どうしたんだ」

「スルトが魔法学園に行くって」

「あぁ、聞いたよ」

「私も一緒に通いたい」

「メアはスルト君と一緒に行きたいのかい?」

「うん」

 

 メアの父親は少しの間考える素振りをする。


「確かに護衛としてなら一緒に通うこともできる。しかし、もしそうしたいなら覚悟が必要だ」

「覚悟?」

「騎士となり、仕える相手を決めたのであれば、例えその相手がどんな立場になろうと最期まで忠義を尽くさなければならない。メア、お前にその覚悟はあるか?」

「ある。私はスルトについていく。私にとってはスルトが一番大事だから」


 メアは真っ直ぐな眼で父親の問いに答えた。


「いいだろう、父さんに任せておきなさい」

「うん!」


****


 それからというものの、来る日も来る日も魔法の訓練や鍛錬を続け、いつしか5年の月日が経ち俺は15歳になっていた。

 そして刻一刻と魔法学園に通う日は近づきつつあった。


 俺は再び魔物の森に行き魔法学園に行くことをオーガの戦士オルガスに話した。


『そういうわけでしばらくの間この村を留守にする。あとのことは魔王軍軍団長のそなたに任せよう』

『魔法学園……か』


 俺から話を聞いたオルガスはしばらくの間考えた後口を開いた。


『スルト殿に頼みがある』

『申してみよ』

『あの子を連れて行ってくれんか』

『あの子?』

『以前スルト殿と戦った獣人のあの子だ』


 えぇ、あいつぅ?

 有力な配下候補ではあるけど王都に連れていくのは危険がすぎないか?

 いつ暴走するか分からない爆弾だぞ。

 まさか躾けるのが面倒くさくて俺に押し付けてるんじゃないだろうな。


『その意図を聞こう』

『あの子は誰よりも魔王様に心酔していた。魔王様が英雄に倒されてからずっとふさぎ込んでいた。しかしスルト殿と戦ってから少しずつ元気を取り戻している。

 まだ納得はしきれていはいないだろうがきっとスルト殿を王と認めるようになだろう。それに、あの子は知る世界が狭すぎる。見識を広めるべきだろう』

『可愛い子には旅をさせよとでもいうつもりか?』


 気持ちは分からんでもないが俺の目的は魔法学園で魔法の知識を身に着けた後、最後は潰すつもりだ。子守をしにいくわけじゃない。

 とはいってもまだあいつが了承すると決まったわけじゃないし、とりあえずは話に行ってやるか。



 猫獣人に会いに行くと森の隅の崖の上に腰掛けながら一人寂しく佇んでいた。

 俗に言う黄昏るというやつだろうか。

 俺が近づくと気配で気が付いたのか振り返ることなく口を開いた。


『……何か用か』

『俺はこれから魔法学園に行く』

『なんのためにだ』

『そんなものは決まっている。魔法学園の奴らを潰すためだ』


 平静を保っていた猫獣人の耳がぴくっと動いた。


『俺様の旅に同行つもりはあるか?』

『……興味ない』

『俺様は英雄を殺しに行く。そのためにまずは魔法学園を落とさねばならないであろう。すなわち、貴様が俺様の旅に同行すれば仇を討てる好機もあるだろう』


 その言葉を伝えた瞬間、猫獣人は瞬時に俺の前まで移動し俺の胸倉を掴みかかる。

 ちょ、苦しい。猫獣人の表情を見てみると凄まじい形相で歯を食いしばり、眉間に皺を寄せ、視線で射殺す勢いでこちらを睨みつけていた。


『黙れ……!お前に魔王様と、私の父と、私の仲間たちと、私の苦しみの何が分かると言うのだ!!』


 しかしここで狼狽えては魔王ではない。

 俺は全く動じていない様子を見せて平然と言葉を返す。


『分かるわけなかろう。俺様は魔王だ。配下一人一人の心情など取るに足らぬことよ』

『このっ……!』

『俺様はどちらでも構わぬ。貴様が決めることだ。永遠にこの森で腐っているか、俺様の旅に同行し強くなり英雄を討つか。二つに一つだ』


 猫獣人は掴んでいた手を話し、しばらくの間考えた後、ゆっくりと口を開き返答を返す。


『……行く。私は行く。お前と外に』

『よかろう』

『だが勘違いするな。私はお前を主人と認めたわけでも、ましてや魔王と認めたわけでもない。ただ利用するだけだ』

『構わん。だが俺様についていくというのなら最低限俺様の命令は聞いてもらうぞ。貴様に暴走されて作戦が台無しになっては困るのでな』

『……ふん』


 猫獣人は少し距離を取るとこちらをにらみつけてきた。

 なんだ、まだ何かあるというのか。

 出発する前にもう一度戦わせろとか言うんじゃないだろうな。

 そんなことを思っていたが猫獣人の口から出た言葉は予想だにしていないことだった。


『あと、貴様って言い方が嫌だ』


 貴様が嫌ね。それ以外だとそなたとかお前とかしか魔王っぽい二人称ないんだけどな。


『じゃあ何と呼べばいいと言うのだ。貴様、名はあるのか?』

『ない。いや、昔魔王様が名付けてくれたけど魔王様が死んだからその名前は使わなくなった。だから好きに決めろ』

『そうだな……』


 とは言ってもなぁ。

 一応魔王趣向に合わせた命名リストはたくさん魔王計画書に書き記してあるがこいつのためにその候補のうち一つを消費するのももったいない気がする。

 しかし戦闘力だけでいえば幹部候補もありえる女だ。

 動き忍者っぽいし、あと影に潜んだし……


『そうだな、貴様は今日からカゲヌイと名乗るがよい』

『カゲヌイ……分かった。そうする』


 こうしてカゲヌイは俺の仮配下となったのだった。

 戦力としては申し分ない。

 問題としては暴走しないように制御しないといけないことだが、まぁなんとかなるだろう。


▼パーティメンバー加入

名前:カゲヌイ

種族:獣人

得意属性:雷属性

武器:拳、爪

スキル:影潜り

性格:人間嫌い、気性が荒い。


※今後こんな形で分かりやすいように設定やキャラクターをざっくりのせようと思います。中二設定とかもできるだけのせようと思うので読んでワクワクしてもらえたら嬉しいです。

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