6話 お約束の盗賊ども皆殺しの時間だぞ~♪

 森の中で盗賊たちが見張りをしている。

 一人は慎重な性格で万全を期して周りで異変が無いか確認しながら歩いている。

 もう一人はかなり楽観的な性格で頭の後ろに両手を回し口笛を吹きながらのんびり歩いていた。


「見張りなんてする必要あんのか?」

「そう油断してる奴ほど後ろから魔物に襲われて死ぬんだぞ」

「魔物どもはお頭の強さにびびって襲ってこねぇだろ。そう心配するほどのことか?」

「まぁそれもそうだが……」


 慎重な方の盗賊がしゃべりながら遠くを見渡す。

 何もないことを確認し視線を元に戻す。

 すると、楽観的な盗賊の姿が消えていた。


「お、おい!どこに行った?変な悪戯は……!」


 次の瞬間、後ろから放たれた矢が慎重な盗賊の頭を貫いた。

 矢を放ったのはスルトが配下にしたゴブリンだった。

 スルトの足者の場所にはさきほどの楽観的な盗賊が闇魔法の紐でぐるぐる巻きにされていた。


『悪くない手際だ。あとはこいつから情報を聞きだすだけだな』

「な、なんなんだてめぇら……!」

『フハハッ』

『ケケケッ』

「ひいっ!?」


****


 盗賊から聞き出したのは盗賊たちの人数、配置、そして頭目についてだ。

 頭目はどうやら大昔は名の知れた冒険者だったようだが問題を起こしすぎて追放された結果盗賊に落ちたらしい。

 しかし実力は折り紙付きで特殊な魔法も使えるとのことだ。

 正直雑兵では相手にもならないだろう。

 だが、実力があるのは頭目だけだ。それ以外なら雑兵でも数で押しつぶせる


『誰一人生かして帰すな』

『はっ!』


 盗賊たちが異変に気が付いた時はもう遅かった。

 次々と盗賊が弓矢で撃たれ殺されていく。

 各個撃破はゲームにおける鉄則だ。

 拠点に攻め入る時は一人でいる人間を順番に殺していく。


「なんだ!?魔物に囲まれているぞ!?」

「この森にいるのはゴブリン程度の雑魚しかいないんじゃなかったのか!?」

『ウガァアア!!』

「なっ!?オーガっ……」


 異変に気が付いた盗賊二人はオーガの斧にまとめて吹き飛ばされた。

 あとは頭目だけか。楽勝だな。


 盗賊のアジトを進んで行くと中心まで到達した。

 そして明らかに一人纏っている雰囲気が違う男がいた。

 ――間違いない、奴が頭目だ。


『ケケッ!あいつだ!あいつさえ殺せば終わりだぞっ!』

『ケケケッ!』


 油断したのかゴブリンたちが一目散に頭目に向かっていく。

 馬鹿どもが、事前に作戦を説明しただろうが。


《ウイングバレット》


 次の瞬間、ゴブリンたちは風の刃に切り刻まれバラバラになった。

 なるほどな、これが数で押しきれなかった理由か。

 集団で攻め込んでもあの風魔法で細切れにされる。

 それに、あのオーガの戦士は力に特化しているせいで素早さが無い。

 なすすべもなく切り刻まれて終わりだろう。

 それにあの練度だ。さらに上の魔法が使えても不思議じゃない。


「ったくどいつもこいつも雑魚ばかりじゃねぇか」

「なかなか良い魔法を使う」


 俺は頭目の前に歩いていく。

 俺の姿を見た頭目はあっけに取られていた。


「は?なんだテメェ。ガキじゃねぇか。それとも若く見えるだけで魔族か何かか?」

「知る必要があるか?貴様は今宵この闇の中で息絶えるのだから」


 俺はレーヴァテインを引き抜き頭目に切りかかった。

 相手はそれを両手にはめている鉤爪で防ぐ。

 なるほど、こいつの獲物は爪か。

 こいつは風魔法による遠距離と鉤爪による近距離を使い分けるタイプか。


「ガキにしちゃやるようだが俺には勝てねえよ!」


 鉤爪で攻撃を防いだまま足でこちらを蹴飛ばしてきた。

 俺は体を後方にとばし衝撃を軽減した。

 

「遊びは終わりだ!」


《ウイングバレット!!》


 頭目が魔法を唱えた瞬間あたりに風が巻き起こりおびただしい数の風の刃がこちらに向けて飛んでくる。

 俺はそれらの攻撃を全てレーヴァテインを振りはじき続ける。

 頭目は魔法を撃ち続けるが一つも俺に当たることは無い。


「な、何ぃ……!」

「貴様の実力はその程度なのか?」

「て、てめぇ……!」


 俺の挑発にキレたのか男は顔が赤くなり血管が浮き出ている。


《身体強化!》


 凄まじい速さでこちらに向けて突進してくる。

 両腕にはめた鉤爪で怒涛の連撃を仕掛けてくる。

 しかしその攻撃すらも俺は全てレーヴァテインてはじき続ける。

 首を狙った一撃をはじき、すかさず腹を狙われるが剣を回し弾き飛ばす。

 足技を絡められるが飛んで回避、飛んだ瞬間を狙われ風魔法を撃たれるも剣を軽く振り弾き飛ばす。

 頭目がいくらこちらに攻撃を加えようと俺に届くことはなかった。


「なんなんだ……なんなんだてめぇは!!」


 なんだ、大したことないじゃないか。

 レーヴァテインを使うほどの相手でもないな。

 正直期待外れだ。

 俺の実力を魔物共に見せるという目的は果たしたしそろそろ殺すか。

 そう思い剣を構えた時だった。

 猫獣人が俺の横まで来ていた。


『待て!こいつは私に殺させろ』

『理由を申すがいい』

『こいつは……私たちの仲間をたくさん殺した。だから私が殺す!』


 うーん、まぁいいか。

 実際こいつに勝つ可能性がある奴といったら魔物どもの中ではこいつだけだろう。

 こいつの本気がどこまでかも興味がある。


『いいだろう。やってみるがいい』

『フシャァァアア!!』


 猫獣人は大きく踏み込み頭目に向かって飛び出し右腕を振りかぶり爪による攻撃を加える。

 俺相手にやった技と同じか。

 しかし頭目は両腕の嵌めた鉤爪で難なく受け止める。

 爪対鉤爪か。見世物としてはなかなか悪くない。


「当たるか!んな攻撃によぉ!!」


 頭目は猫獣人を蹴飛ばすと手を目の前に向け風魔法を放つ。

 猫獣人は体を捻り躱すが避けきることができず腕に傷がついてしまっている。

 あの程度の攻撃も躱し切れんとはな。正直見ていられない。


 眺めて見ていた俺は猫獣人と頭目の間に割って入る。

 それを見た猫獣人は明らかに機嫌を悪くしている。

 ――いや、お前だってさっき俺と頭目との戦いに割って入ってきたろ。


『邪魔をするな!』

『邪魔をするつもりなどない』


 俺はレーヴァテインを背中にしまい素手の状態になる。

 せっかくだから脳筋な戦い方しか知らないこいつに技術というものを教えてやろう。


『見ているがいい』


 俺は猫獣人と同じ速度で飛びかかり同じように右腕で殴りかかる。

 しかし直前で方向を変え足元を殴り地面を揺らす。

 体の重心が崩れたのを見逃さず軽く左腕で腹を殴りつける。

 そのまま殺しても良かったがこれは授業だからな。


『やってみるがいい。できるものならな』

『……っ!』


 猫獣人は同じように加速し同じように右腕で殴りかかり、今度はそのまま当てるのではなく俺のやり方を真似して地面を殴り揺らし、バランスを崩し脇腹を狙い左腕で殴ろうとするが避けられてしまう。


『全く同じやり方でやる奴があるか、馬鹿者が』

『うるさいな……!』

『もう一度手本を見せてやる』


 俺は同じように飛び出し、今度はフェイントを織り交ぜ殴ったり、視線を誘導し視界の外から殴りを入れたり、闇魔法で視界を防ぎ足払いをするなど様々な戦法を見せる。

 いくらでも隙を作り出しているというのにその隙を責めとどめを刺そうとしない俺に足して頭目は怒りを向ける。


「さっきから何してやがる……!攻撃をわざと手加減してるのが見え見えだぞ!」

「貴様はただの案山子かかしにすぎぬ。配下となる者に戦い方を教えるためのな。分かったら案山子は案山子らしく大人しく殴られてればよい」

「舐めるな小僧ォォオオオ!!!」


 怒りに満ちた頭目は一直線に向かってくる。

 今度は猫獣人が俺と頭目の間に割って入り頭目の鉤爪による攻撃を受け止める。


『やってみろ』

『シャァアア!!』


 猫獣人は構えを取り頭目に向けて飛び出す。

 同じようにフェイントを織り交ぜたり、足技を使うなどして戦っている。

 俺の真似がほとんどではあるものの、ある程度応用している。

 闇魔法で視界を塞いでいた戦法は砂を蹴った目つぶしで代用したりしている。

 悪くない。脳筋かと思っていたがやり方を知らなかっただけのようだな。

 思ったよりは素質がある。


「くそがぁ!!」


 いらついたのかそれとも命の危機を感じたのかは知らないが、頭目はさきほどよりも強い魔力を纏い始めた。

 ほとんど勝負は決まりつつあるというのに、今更何をする気だ?


《トルネードウインド!!》


 頭目がその魔法を詠唱すると同時に広場に小規模な竜巻が巻き起こる。

 ほう、まだ奥の手があったか。

 周りを取り囲んでいたゴブリンやオーガたちはあまりの規模に逃げ惑っている。

 確かにこの規模ならあの竜巻に触れただけで体中が切り刻まれるだろう。


「手も足も出せねぇだろ!これなら……」 

『隙だらけだ』

「なっ!?」


 風魔法を使った隙をつき猫獣人は頭目の真後ろに回り込み爪で首を掻き切った。

 そのまま頭目はその場に倒れ落ち動かなくなった。

 危機に焦り選択を誤ったか。愚かな奴だ。


『褒めて使わそう』

『……お前に褒められても嬉しくない』


 強情な奴だ。この俺がわざわざ褒めてやっているというのに。


『一応感謝はしておく。お前のおかげで仲間たちの仇がとれた』


 猫獣人はぱっぱと体の埃を払うと通りがかりに俺にお礼を言ってきた。

 ある程度信頼を得られてきたか。良い調子だ。

 このまま俺の配下として徐々に教育していってやろう。


 そのあとは食料を奪い取ったり、盗賊がため込んでいた宝を奪い取ったりもした。

 これでしばらくお小遣いには困らないな。

 食料は俺が持っていてもしょうがないので全部魔物たちに渡した。

 しばらくの間は食料問題も解決するだろう。


「……ん?これは……」


 盗賊たちの宝の中に気になるものがあった。

 なんだこれは。文字がかすれていてよく読めないが……

 薬液、実験、魔法学園……これはなんだ?

 この森でしか取れない特殊な素材を何者かとの特殊な取引の記録のようだが。

 右下に印のようなものが押されている。どこかで見たことがあるような気がするんだが……

 そう思っていると通りがかった猫獣人がその印を見て血相を変えた。


『それは……!!』

『知っているのか?』

『この紋章……忘れるわけがない……私たちの仲間を殺した奴らが服につけていた!』


 魔法学園の紋章か。

 確か王都の魔法学園の隣には魔法学研究所もありそこで魔法についての研究を行っているという話を聞いたことがあるな。

 しかし盗賊と取引してでも手に入れたい素材があるとは。

 魔法学園に行けば魔法の知識だけでなくこういった魔法学の実験についての知識も得られる可能性があるというわけか。

 それに、最終的に魔法学園を潰してやれば人類側の戦力も大きく削げる。

 更には魔物たちの士気も上げることができる。

 やはり魔法学園に通うのはいい手かもしれんな。

 そんなことを考えながら俺はその紙を懐にしまい込んだ。


 その後、俺のことを認めていなかったオルガスの配下たちもこの件でようやく王として認めたようだった。

 これでいざという時の戦力となる。

 魔王軍創設としての第一歩としては十分すぎるくらいだな。


 夜も遅くなりすぎたので万が一両親に俺が家にいないことがばれたりしたら凄い怒られ……怪しまれるのでこのあたりで家に戻るとしよう。

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