3話 魔王計画書とかかっこよく言ってるけど結局のところただの中二病ノート
あれは確か3歳の頃だったか。
両親に王都まで連れて行かれたことがある
両親が言うにはパレードの招待を受けたとのことだったが……いかんせん王都は国の北部に位置するので移動時間が長くて仕方なかった。
前世みたいに新幹線ですぐとか、更に寝心地が良いわけでもないしな。
移動は面倒だったが王都の様子はなかなか壮観と言えた。
まさしくファンタジーなあちこちに中世な建物がずらりと並びあちこちには馬車や人が行きかい、武器屋や防具屋といったRPGで見たような店があってワクワクしたな。
メインとなるパレードを見に行くと周りには隙間なく人で埋め尽くされており目の前にある道をじっと見つめて今か今かと何かを待ち望んでいるような状態だった。
待っていると向こう側から一人の男が豪華な馬に乗りながら現れた。
短めの金髪で背はかなり高く、王冠をつけ毛皮がついたこれぞ英雄って感じのマントとローブを鎧の上に羽織っている。
そして民衆たちに笑顔で手を振っていた。
視線を向けるだけで民衆から黄色い声援が飛び交う。
「見た!?英雄ヒロ様がこっちを見てくださったわ!」
「何言ってるの!今のは私を見たのよ!」
隣でそんなくだらない会話が聞こえる。
魔王を倒した英雄。それがあれか。
正直この式典自体には全くもって興味は無いが、両親には素直に感謝すべきだろう。
何故なら、この場に来たことで俺がやるべきことが分かったのだから。
俺はこの世界で剣術、魔法、と力を磨き、配下を集めいつかあの英雄を打倒する。
そして奴を殺した暁にはその首をこの場所で晒上げてやる。
人々は新たなる魔王の誕生に恐怖し、恐れ戦き、悲鳴をあげるだろう。
待ってろよ、英雄。俺がこの手で殺してやる。
俺は英雄を目の前にしてそう誓ったのだった。
****
転生した時に聞こえたあの声は幻ではなかったらしい。
俺が3歳の頃、母さんが物置から何か薄い本のようなものを手に持ってきたことがあった。
「物置に見慣れないものがあるみたいなんだけど……」
「ん?なんだそれは。あちこちに紋章や魔法陣のようなものが描かれているな。しかしこんな魔法陣は見たことがない。内容は……何語だ?見たことない文字だな。
それに子供の落書きのようなものが……」
それ俺の魔王ノートぉぉおおお!!!
「母さん父さん!それ僕のぉおおおお!見ないでぇええ!」
俺はまるで金持ちから宝石を擦り取る熟練の盗人のごとき速さで母親の手からノートを奪い取った。
「あら、スルトのだったの?その年で魔法に関する研究を本にまとめるだなんて感心ねぇ」
「是非とも大魔導士になって活躍してもらいたいものだな、はっはっは」
両親は呑気に笑っている。
この事態が魔王にとってどれだけ問題ある事件なのかも知らずに。
魔王は自身の魔王となる計画や技名などを書き記した、決して他人に見られてはならぬノートを持っているものなのだ。
幸運にもこの世界の文字は日本語ではなかったので内容を読まれずに済んだ。
危なかった、万が一読まれようものなら俺の魔王としての計画が一気に瓦解してしまう。
そうでなくても口封じのために今この場で両親を殺さねばならなかった。まだその時ではない。
決して恥ずかしいからとかじゃないぞ。決してだ。魔王は恥ずかしがったりなんかしないんだ。
****
俺は自分の部屋で魔王ノート開いた。
って、魔王ノートって言い方はダサいな。よし、今後は ♰
俺の理想とする魔王はやはりゲームや漫画にもあるような魔王だ。
地獄の地に強大な城壁を構えそこに優秀な参謀や部下を揃え玉座に腰掛ける。
そんな自分の姿を考えただけでも不敵な笑みがこぼれるというものだ。
まずその目標を達成するにはいくつか必要なものがある。
一つは圧倒的な強さ。これは言うまでもないだろう。
幸い俺には魔法の才能もあったし、剣術なんかも教えてもらえる環境にいる。
何よりこの魔剣を手に入れたのだから大分目標に近づいたと言えるだろう。
しかしこの程度じゃ到底足りない。両親は大魔導士になれると言ってくれているが大魔導士程度じゃまだ人間の領域にすぎない。
もっと災害を起こせるくらいの大魔法が使え、剣術も山々を切断するくらいでなくては。
そして二つ目は優秀な部下だ。
何しろ玉座の横に参謀や側近を置くというのも魔王らしいしな。
それを達成するには俺のためなら命をささげるというような部下が必要だ。
三つは城だ。
上の二つを揃えていない今はあまり考えるべきではないがこれは俺が魔王としての威厳を示すための絶対条件だ。
マグマや猛毒の沼にまみれた死地に大きな城を構える。
考えただけでも心が躍る。
魔王計画書に英雄を殺すことについての記述を追加し引き出しにしまいこんだ。
****
俺は自身の理想とする魔王になるべく、来る日も来る日も森の広場で魔法の訓練を重ねた。
火、風、水、土の四属性魔法の練習。
毎日毎日朝から晩まで岩の壁に向かって魔法を撃ち続けた。
《フレイムショット!》
俺の放った炎魔法は岩に向かって真っすぐ飛んでいき爆散する。
「いや、名前ダサいな。テンプレートすぎる。
もっとかっこいい名前……
ファイヤーアロー、
なかなか魔王らしい魔法の名前が思いつかない。
仕方ない奥の手だ。
魔王らしい詠唱を唱える。これしかない。
心の中を魔王で染めればおのずと魂の中からその技にふさわしき名が浮かんでくるものだ。
「深淵の中より生まれし闇よ、今こそ我の呼び掛けに応えその罪を顕現せよ!!」
《
俺の放った巨大な炎魔法は目の前にある二階建ての家くらいの大きさのある大きな岩を破壊した。
毎日の修行の成果により、俺の魔法はついに上級魔法のレベルまで達した。
この時点で既に俺の実力は王都の魔導士に匹敵するレベルだ。
くっくっく、この歳にしてこのレベルとは。我ながら自分の才能が恐ろしくて仕方ないな。
四属性魔法も重要だが肝心なのは次の二つだ。
俺が生まれ持った闇属性魔法と光属性魔法。
正直闇属性魔法はいいのだが光属性魔法は正義の味方っぽい感じがするからつけてくれなくても良かった感がある。
しかしせっかくのアイデンティティなのだから練習はしておくが。
だがやはり闇魔法がメインだ。
研究してみたが闇属性魔法には様々な特徴がある。
周囲を暗くしたり、物体を引き寄せたり、不定形に形を変化させ紐状にしたり。
更には展開した闇に火属性魔法を撃ってみたら音もなく吸収してしまった。
これは魔法相手にチート級の強さなんじゃないだろうか。
しかし不定形に形状が変化すると言うのなら一つやってみたいことがある。
≪闇の剣≫
俺は魔法を唱えると手に込めた暗黒の魔力を長細い剣の形にする。
そしてその剣で大きく岩の影を薙ぎ払う。
大きな音と共に岩の壁が削れる。
魔法訓練はこのあたりにして次はレーヴァテインの実験に移るとしよう。
俺はレーヴァテインを構え息を吐き、集中する。
近くに生えている木から木の葉が落ちていき、地面についた瞬間、レーヴァテインを抜き岩の壁を薙ぎら払う。
凄まじい轟音と共に岩の壁が大きく抉れる。
さっきの闇の剣で斬った時と比べて5倍ほど抉れている。
「……これ、闇の剣いらないな」
せっかく開発した魔法だったのに。
なによりかっこいいのに。もったいなさすぎる。
まぁでも他の形で応用できるかもしれない。
アイディア次第で何かに化けるだろう。多分。
「スルトー、凄いねー」
——え?
幼馴染のメアがパンをむしゃむしゃと食べながら話しかけてきた。
こいつ、いつの間に……!?
この俺が気配に気づかないなど。ありえん。ここまで気配を消せるか。
そもそも俺がこの森で修行していることは誰にも言っていないというのに。どうやって。
「……メア、どこから見てた?」
「しんえんのなんとかとか言ってたところからかな」
がっつり見てんじゃねぇか。
呑気にパンなんか食いやがって。
こいつ、口封じのために殺すしかないか。
ん?待てよ、パン……?
「……なぁ、メア」
「なーに?」
「もっとうまいパンを食いたくないか?」
「え、食べたい」
「そうかそうか。俺がいくらでも食わせてやる」
「え、本当?やったー」
「その代わり、今日のことは誰にも言うなよ?いいな?分かった?まじで言うなよ?」
「言わないって」
俺はメアを連れて村の食堂に向かったのだった。
魔王たるもの、その練習の最中は決して誰にも見られるわけにはいかないのだ。
決して恥ずかしいとかじゃない。本当だって。
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