第15話 能力の使用と悩み

 力者として基本となる知識と京達の能力について学んだ龍助。


「さて、これでおしまいだね。颯斗、ありがとね」


 京は相手をしてくれた颯斗に一言お礼を言った。


「いえ、俺は撃っただけです」


 冷たくそう言い放った颯斗だが、龍助にはなぜか悪意は感じなかった。


 もう能力については終わったので、京が先ほどと同じように指を鳴らすと、また空間が歪んで白い光が龍助たちを包んだ。

 空間変換を解除したのだろう。目を開けると、先ほどの空き部屋の光景が視界に入ってくる。


「相変わらずすごい力だな」


 と龍助が感心したように呟いた。

 しかし、京は強いが、力を制御するのにどれだけ時間がかかったんだろうと疑問に思った龍助。

 彼自身現在進行形で力の制御に悩んでいるので、純粋な疑問だった。


「そういえば、颯斗が使っていた銃は?」

「これのことか?」


 マイナスなことを考えないように、気を紛らわすように龍助が颯斗に聞いた。

 聞かれた颯斗は腰から先ほどの銃を取り出し、龍助に見せてくれた。


「これは千聖さんが作ってくれたもの。魔弾機と言う魔具まぐだ」

「魔具? また訳わかんないのが出てきたな」


 龍助が素直な感想を述べると、颯斗がめんどくさいと顔に出しながら、京と叶夜に助けを求めたが、二人ともスルーした。


「……魔具ってのは、簡単に言えば魔法の道具のことだ」


 仕方がないと考えたのか、颯斗が手短に説明してくれた。

 魔具とは、颯斗の言う通り魔法の道具で、持てば、自分の力のサポートをしてくれるそうだ。


「珍しいね。颯斗が説明するなんて」

「誰のせいだと? あと俺をなんだと思っているんですか……」


 本人に説明させた京の言葉に颯斗が睨んで見ていた。

 しかしそんなものは痛くもかゆくもないと言うように京が視線を逸らして受け流した。


「ちなみに、颯斗の能力は威力などを上げたりもできるよ」

「へぇ……。すご」


 京の説明に龍助が感心したのと同時に、この魔具は颯斗にピッタリだと思った。


「颯斗は能力も使いこなしてるから丁度いいものだよね」


 その言葉に龍助は叶夜達が力者としてかなり優秀なのではないかと考えた。

 ふと叶夜の方を向くと彼女はなぜか苦笑いをしていた。


「私はまだ使いこなせないの……」

「え、そうなの?」


 叶夜の発言に龍助はすごい親近感を感じたが、叶夜は少し複雑そうな表情をした。


「私の能力はあれでもとても強力なものなの。だから制御が難しいのよ」


 叶夜が苦し紛れにそう言い切った。顔を俯いてしまっていたが、龍助はそんなことは気にしないかのように今思ったことを口にする。


「すごいな。そんなに強いものをあんな簡単に出し消しできるんだね」

「え?」


 龍助の言葉に叶夜が呆気に取られていた。

 それだけ制御が難しい能力なのに、さっき簡単に披露して見せていた。そのことに対して龍助は感動していた。


「俺もあれぐらいはできるようになりたいんだけどな……」


 龍助が遠くを見て語った。そしてその場の空気が静まり返っていた。


「……あれ? 俺なんか変なこと言った?」

「あっはは! 全然! むしろ面白いことを言ったよ」


 京が大笑いしながらそう言った。しかし笑ったのは京だけではなかった。

 叶夜も先程の暗い表情と一転して、光のように明るい笑顔を見せていた。

 それを見た龍助は何が何だかわかっていなかったが、とりあえずおかしなことは言っていないことに安堵した。



 ◇◆◇



 四人がしばらく授業を行い、全て終わった時、タイミングを見計らったように部屋のドアからノックの音が聞こえてきた。


「誰だい?」

「失礼、ここに京さん達がいると聞いたのですが」


 京の問いかけに答えた声は千聖のものだった。

 それが分かったようで、京が「どうぞ〜」と軽い口調で入るように促した。

 ドアが開くと、そこにいたのはやはり千聖だ。

 彼の手には黒い筒状のようなものが握られているのが見えた。


「どうしたんだい? 千聖」

「これを天地くんに渡したくて」


 千聖は笑顔で答えながら中に入り、龍助の方に近寄ってきた。


「天地くん、良かったらこれを使ってください。きっと役に立ちます」


 そう言って持っていた黒い筒状のものを差し出し、それを受け取った龍助が何かとそれを見つめている。


「振ってみてください」


 そう言いながら千聖が腕を振る動作を見せた。それを見た龍助が筒状のものを持ちながら上から下に腕を振り下ろすと、筒の先から棒が出てきた。

 そう、千聖が龍助に渡したのは警棒だった。それもかなり長い特殊な警棒だ。


「ちょっと物騒ですが、まだ能力も使いこなせていないようなので、護身用です」


 千聖が優しく微笑んだ。

 どうやら、能力が開花してまだ日が経っておらず、使いこなせていない龍助を気遣って、先ほど作ったようだ。


 千聖は格闘技や剣術などを得意としている龍助に、もしもの時、身を守れるようにと作ったらしい。その気遣いは素直に有難かった龍助。


 龍助の警棒は、魔法がかけられており、剣で襲われても対抗できるものらしい。

 他に、霊体にも干渉することが出来る力もついており、簡単には折れないようになっている。


「ありがとうございます。嬉しいです」


 龍助が率直な思いをそのまま口にすると、千聖は「良かった」とだけ言って微笑んだ。


「相変わらず、仕事が早いね。千聖」

「そんなことないですよ」


 京のツッコミを千聖は軽く受け流していた。京も後で龍助に合う道具を作ってもらおうとしていたようだ。

 二人がそんな会話をしていると、どこからか電話の着信音のようなものが聞こえてくる。それは京のものだったようで、彼がポケットからスマホを取り出した。


「はーーい、もしもし? はい。え、マジっすか?」


 電話を話している京の喋り方がいつもより比較的丁寧になっていたことに龍助は新鮮味しんせんみを感じていた。


 京はため息を吐きながら「わかりましたよ」といかにも気だるそうな声で答えて電話を切った。


春永はるながさんから呼び出されたよ〜」


 両肩を落とし、面倒臭そうにまたため息を吐いた京。


「春永さんって誰ですか?」

「この組織のトップの人よ」


 龍助の疑問に叶夜が答えた。どうやらトップ、分かりやすく言えばTPBの社長である。

 そんなトップの春永と言う人物に京は呼ばれたらしい。

 そんな人からの呼び出しだからか、彼は頭を抱えており、それを見た龍助はかなり苦手なんだと痛感した。


「まあ、ちょっと行ってくるよ」


 逃げ出すこともなく、いさぎよくそう言いながら京は一瞬で姿を消した。


「それじゃ、僕はこれで」

「あの千聖さん」


 京を見送った千聖が自分の用は済んだというように三人を置いて部屋を出ていこうとしたがそれを龍助が止めた。

 止められた本人は手をかけていたドアから龍助の方へと向いた。


「どうかしましたか?」


 千聖が笑顔で尋ねてきた。

 龍助は一瞬言葉に迷ったが、何とか口に出す。


「千聖さんってなんの研究しているんですか?」


 必死になりすぎた龍助が唐突かつ直球に聞いてきた。

 千聖は一瞬目を丸くしたが、龍助の必死さに思わずふっと小さく笑ってしまった。


「そんなに必死にならなくても、言える範囲でなら教えますよ」


 笑われたことに恥ずかしくなる龍助だったが、力者の研究に興味を持っていたため、聞けることに嬉しさを感じていた。


「僕達がしている研究は、力者特有の病気専用の薬です」

「薬? 力者だけがなる病気があるんですか?」

「はい。魔法や術を使わなくても良いようにするための薬です。それ以上は秘密です」


 龍助の質問に千聖はゆっくりと頷き、補足の説明をしてくれたが、それ以上教えられないと言った。

 下手に情報が出回れば悪用する者が現れる可能性があるからだ。

 龍助は少し物足りない感覚だったが、理由が理由なのでそれ以上の追求はしなかった。

 そんな話をしていると、用事を終えたのか、一瞬で姿を現して元の場所に戻ってきた京。


「やあ、待たせたね」

「京さん、春永さんからの呼び出しって何だったの?」


 叶夜が戻ってきたばかりの京に質問を投げかけた。

 それに対して京は何か悩み、決心したように龍助達をまっすぐ見る。


「突然だけど、任務が与えられたんだ」


 それを聞いて、京が仕事をしに行くんだろうな程度に認識したが、次に聞かされた言葉は驚きのものだった。


「ちなみに、龍助も含んで君たちも一緒に行くことになったよ」


 その言葉に龍助の頭の時間が停止したがすぐに動き始め、理解してしまった。

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