第14話 三人の能力

 TPBとTBBの関係、ついでに楽園の話をし終えた京が今度は「力源りきげん」というものについて話し始めた。

 ホワイトボードの中心に一つの円を書き、その中に力源の二文字を入れた。


「力源とは、文字通り力の源となるもの。能力が開花する時と魔法と術を使うのに絶対に必要なものだ」


 京によると、力源は能力や魔法などを使うための力を生み出しているところらしく、よっぽどのことがない限り失われることは無いらしい。


「例外として、莫大ばくだいな力を使えば力源に大きな影響が出るけどね」


 莫大な力がどのようにして使われるのか分からない龍助だが、後に分かることだろうと気にしないことにした。


 次は能力と魔法などの違いについて京達が教えてくれる。


「まず能力は、個人それぞれが持っている力で、龍助・叶夜・颯斗、そして俺のように『〜の力』として現れるんだ」


 この時に京が少しだけ龍助に初心者でも出来る能力を使う方法教えてくれた。


「能力を使うための力を血と同じように身体中に流すイメージをすれば少しだけど使えるよ」

(なるほど……)


 実際に今、龍助がその方法を試してみると、力が身体中に湧き上がったのが分かった。

 ちなみに、止め方はその流れの動きを止めるイメージをするだけだそうだ。


 京が能力のことを教えてくれた後、連携を取るかのように今度は魔法などのことを龍助の右隣に座っている叶夜が教えてくれる。


「魔法や術なんかに関しては、力さえあれば修行をしたりすると、誰でも会得することが出来るものなの」


 教えてくれるのはありがたいが、一度に大量の情報が頭に流れ込んでいき、混乱した龍助。しかし、なぜか徐々に難しかったことが頭の中で整理されていく。


「あれ? 難しいことなのに理解が出来てる」

「それも能力のおかげだね」


 京によると、龍助が難しいことをあっさりと理解できたのは肉体の力で脳の理解力が上がったからだ。


 京達の話を簡単にまとめると、能力は生まれ持った力、いわゆる先天性のものであり、魔法と術などは修行を積んで手に入れる後天性のものである。


 龍助が内心納得していると、次のお題へとテンポ良く進められていく。

 次はTPBに来る途中でも話していた魔眼だ。


「魔眼についてだけど、これは強力で制御がかなり難しいんだよ」

「京さんはどれくらい制御出来てるの?」

「俺はもう力の制御は出来ているよ。好きな時に使えるし、どれだけ使えるのかも把握しているよ」


 つまりは完璧とまではいかなくても必要最低限使いこなせていると言うことだ。


「心配しなくても君も使えるようになるよ」


 使いこなせるかの不安が顔に出ていたのか、京が励ましてくれた。

 ちなみに魔眼も力を必要とするので、能力も魔法も魔眼も発動させるには力が必要不可欠なんだと龍助は覚えることが出来た。


「簡単な知識は一通り終えたね」

「ところで、みんなの能力ってなんて言うんだ?」


 一段落したところで龍助がずっと気になっていたことを聞いた。


「俺は内緒だけど、この子達は教えてくれるよ」


 なぜか京は教えてくれず、他二人に教えるように促した。


「私はこれよ」


 了承した叶夜が一言そう言いながら手のひらから一つのまばゆい光を出現させた。


「うおっ?! 光?」

「そう、『光の力』。これはどこでも光を出したり操ったりすることが出来るの」


 叶夜が手短に説明してくれた。

 光と聞いてもあまりピンときていない龍助。暗闇では便利だなと思ったくらいだ。


「じゃ、次はずっと黙ってた颯斗ね」


 嫌味を含んだ言い方で颯斗に答えさせようとした叶夜だが、龍助は喋らないだろうなと予想した。


「俺のは実演するのが難しいので口頭で。『強化の力』で、なんにでも強化を付与出来る」

「お、おう」


 龍助は一瞬、能力のことより颯斗が喋ったことに驚いてしまった。


「そうだ。いじわる言わないで京さんも見せてあげたら良いじゃないですか」


 自分に注目されるのが嫌だったのか、颯斗が京に視線を移して能力の説明をするよう促した。


「うーん……。ま、いっか」


 数秒くらい考えた京があっさりと教えてくれることになった。

 先程のいじわるはなんだったのか説明して欲しいと龍助は思った。


「颯斗。相手して」


 そう言いながら京が座っていた三人の後ろにある比較的広い場所に立ち、颯斗に手招きをする。

 颯斗はすごく嫌そうな表情をしていたが、言い出しっぺということもあって渋々京の前に立った。


「能力見せる前に少し空間変えるね〜」


 京がニコッと笑いながら、指を鳴らすと、突然部屋全体の空間が歪みだして部屋の真ん中が真っ白に光出し、龍助たちを包んだ。

 眩しくて目を瞑った彼らが次に目を開けると、一面真っ白の空間に立っていた。


「な、何これ?」

「『空間変換』よ。京さんの魔法で空間を変えて広げたのよ」


 叶夜曰く、先ほどの教室は狭すぎたため、空間自体を変えた上に広さを大きくしたらしい。いわゆる異空間だ。


(そんなことまで出来るのか……)


 龍助は呆気にとられたのと同時に感動していた。


「それじゃ、俺の能力を披露ひろうしようか! 颯斗、どこからでもおいで」


 京が能力を秘密にしようとしていたとは到底思えないほどにイキイキしていた。

 颯斗はため息を吐きながら呆れていたが、すぐ、真剣な表情になって、腰から銃のようなものを取り出した。それを見た龍助は驚愕し、止めに入ろうとしたが、叶夜に制された。


 銃口を京に向けると、その銃口に光が集まり、一定量に溜まると颯斗は引き金を引いた。

 すると溜まった一つの光の球が発射された。


 飛んでいった玉は京を狙っており、このままだと命中してしまう。

 焦っていた龍助とは違い、京は余裕そうに笑っている。

 次の瞬間にその笑みの意味が分かることになる。


 球はまっすぐに飛んできて、京に命中するかと思われたが、その直前で左へと方向を変えてそのまま飛んで行ってしまったのだ。


(!? どういうこと!? 攻撃が曲がっていった?)


 龍助は信じられない光景を目の当たりにした。

 颯斗の方を見てみると、彼は特に表情を変えず、同じように光の玉を連発していく。

 しかし全ての球は京の直前で様々の方向へと飛んでいってしまう。一つの方向以外に。


(こっちにだけ飛んできてない……?)


 なぜか、龍助達がいる方向には球が飛んできていないのだ。


「京さんが意図的に標的を変えてるのよ」


 龍助の考えを読み取ったように叶夜が説明してくれた。

 標的を変えるという言葉に耳を疑ってしまった龍助。


 しばらく同じ光景が続いたが、京が手を上げて、それを合図に颯斗は銃を下ろした。

 これで能力のお披露目は終わりのようだ。


「これが俺の能力『的の力』だ」


 京がやりきった感を出しながら説明した。


「的の力は端的に言うと、攻撃対象を決めることが出来る能力。主に物体を的に出来るんだ」


 魔眼だけでも恐ろしいのに、能力が同レベルくらい強いものだということに龍助は言葉を失ってしまった。

 唯一この言葉しか出なかった。


「チートすぎるだろ……」

「いや〜。それほどでもあるかな〜」


 龍助の呟きに京が満面の笑みで自画自賛じがじさんした。

 龍助の反応があまりにも愉快だったのか、京が満足気に笑った。


「ほんと、この人はいわゆるチートキャラに近いからね」


 叶夜が京の方を向きながらそう言った。

 呆れたような物言いだったが、彼女のその目は、憧れに近いものだった。それは龍助も同じである。


 普段は軽い口調と態度で周りを呆れさせてはいるが、実力は十分すぎる男、それが京なのだとこの場にいる三人はそう感じていた。


 龍助もいずれは彼のようになりたいと思っている。穂春と高原先生や友達そして、「ある人」のために。

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