第13話 TPBとTBB

 昔大好きだった男の子の面影おもかげがある千聖は龍助の手続きのために研究室から出ていった。

 用がなくなった龍助達も研究室を出て行くが、一人だけ出てきていない人物がいた。


「あれ? 京さんは?」


 龍助が研究室に戻ろうと扉に手をかけようとしたその前にゆっくりと開いた。

 京が出てきたのだ。

 その表情は何か思い詰めているようだった。


「京さん、どうかしました?」

「ん? 何にもないよ〜。それより行こっか」


 思い詰めた表情の京を見て心配した叶夜に、彼は何もなかったかのように表情を変えて対応した。

 一言添えた京が先頭を歩いていく。

 何も知らない三人は心配しつつも彼についていく。


「着いたよ」


 到着したのは研究室から目と鼻の先にあった空き部屋だ。


「ここで授業をしようか」


 と京が親指で空き部屋を指した。

 それを聞いた颯斗が役目は終わったと思ったのか、その場から立ち去ろうとした時、京が呼び止める。


「ちなみに颯斗達も一緒にやるよ」


 颯斗は目を見張っていたが、叶夜は笑顔で了承した。


「なんで俺たちまで」

「基礎を学び直すことは大事なことだよ? 基礎が出来なければ何も出来ないからね」


 京に言われた颯斗はまだ納得できないと言いたげな表情をしていたが、一理あると思ったのか渋々了承した。

 龍助としては、一人より、誰かがいてくれた方が勉強が楽しめるので、ありがたい。

 自分も普段真面目に授業受けてるわけじゃないけど、今回の内容は面白そうなのでしっかり聞こうと思った。

 これで、これから三人で授業をすることになり、京はこの光景を嬉しそうに見ていた。

 そして、四人は空き部屋の中に入っていった。

 空き部屋に入ってみると、一見何も無いように見えたが、端の方に机と椅子が畳まれた状態で置かれており、他にも授業で使いそうなホワイトボードなど最低限揃っていた。

 龍助達が机と椅子を部屋の真ん中に持ってきて準備をしている間に京はホワイトボードを持ってきた。

 準備を終えて、早速最初に京が教えたのは、ここTPBのことについてだ。


「TPB。正式名称、ゾーズ・フー・プロテクト・ザ・バランス。意味が秩序を守る者。僕らは龍助を襲ってきたもう一つの組織、TBBを壊滅のために追いながら、様々な不可思議な出来事を陰で解決したりするのを仕事としているんだ」


 開設当初から様々な依頼を受けているらしく、表向きでは病院を兼ねた研究所として活動しているらしい。


「まあ、表向きの病院と研究所も十分怪しいけどね」


 京がおちゃらけたように言った。


「なんでTBBって組織を壊滅させるの?」

「TBBの正式名称は『ゾーズ・フー・ブレイク・ザ・バランス』、意味は『秩序を崩す者』。この組織はあらゆる方法で目的達成しようとする奴らだからさ」


 龍助が気になったことをそのまま口に出した。

 TPBと一文字違いであるため、どんな因縁があるのかを聞こうとしたのだ。

 それに対して京が簡潔に話した。

 TBBは自分たちが欲しいものや目的達成のためなら手段を選ばないと言うのだ。

 何か方法を思いついたり見つけたりすると、片っ端から執り行い、他者に害を及ぼしてくるらしい。

 そんなTBBに対抗するために国が立ち上げたのがTPBらしい。

 力者相手なら力者で対抗するしか方法がなかったらしい。


「ちなみにこの間捕まえたやつは、今も質問攻めにあっているよ」


 それを聞いた龍助はひろしがここに連れられてきたんだとどうでもいい確認も出来た。

 同時に、ここはかなり危険な組織と戦っていて、いずれ自分も戦わないといけないんだと不安になっていく。


「心配しなくても、君は十分強くなれるからさ」


 また龍助の心を読み取ったのか、京が笑顔でそう言った。

 その言葉がまだ半信半疑だった龍助だが、膨らんだ不安が少しだけ和らぐ感覚を覚えた。


「まあ話を戻すと、TBBの今までの行動は本当にひどいものでね……」


 京から聞かされたTBBの今までの行いは彼の言葉通り本当にひどいものだった。

 時として、核兵器や危険な魔法を作り出そうとしたり、ある島が所有する財宝を自分たちの利益や力のために盗もうとしたりしていた。

 今までのことを聞いた龍助はTBBに対して気分が悪くなるほどの嫌悪感を抱いた。

 そこまでして世界を自分たちの思い通りに崩していきたいのかと。

 TBBが何かをする前に、TPBが事前に調べて、事件などを防いでいるが、その中で何度か交戦しているらしい。

 それは途方もなく大変なことだ。


「ここまでしておきながらだけど、奴らの最後の狙いは、この星の唯一の楽園の力なんだよ。今までのはまだ序の口だ」


 突然星という規模のでかい言葉に龍助は一瞬ついていけなかったが、少なくともTBBは一番してはいけないことをしようとしているというのは分かった。


「この世界に楽園なんてあるの?」


 龍助はTBBの話の中で出てきた「楽園」のことが気になり、そのことを聞いた。

 楽園という言葉はおとぎ話でしか聞いたことがないため、興味を惹かれたのだ。

 そのことについて京が分かりやすく教えてくれる。


「楽園はこの地球ができたのと同時に生まれた島と言われているんだ。名前を『アヴァロン』。そこは世界の神話やおとぎ話などに出てくる全ての楽園の正体だと言われてるよ」


 京が楽園、アヴァロンについて話してくれたが、幻の楽園と言われ、誰も見たことがないので詳細は不明らしい。

 現実の世界でもそんな世界があるんだなと楽しくなった龍助。


「ちなみに伝説だと人類の始祖、アダムとイヴの話で有名なエデンの園もアヴァロンの中心に位置しているらしいよ」


 今度は叶夜が教えてくれた。

 とてもロマンチックな話だが、その楽園をもTBB含む様々な輩が荒そうとしているらしい。

 それを聞いた龍助は楽園のことを考えるととてもじゃないが酷いと感じた。


「まあ、楽園にはどんなやつでも辿り着けないけどね」


 京が肩を下ろしながらそう言った。その言葉の意味を龍助は理解できなかった。

 しかし、様々な話を聞いて、これから戦っていく敵がたくさんいるんだということは確信できる龍助だった。

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