第12話 研究者
病院から出て、京達が所属するTPB本部にやってきた龍助は、到着してすぐ彼らに連れられて、様々な場所に案内された。
食堂、大広間、研究室と順番に紹介された。
まるで学校の見学に来ている気分になる。
龍助が想像していた約百倍以上は広く、様々な場所がある。密かに胸を高鳴らせていたそんな時、京が立ち止まった。
一つの部屋の前に到着しており、ドアの上には簡単に「三二六号室」と書かれている。
「ここが君の部屋だ。規則を破らない限り、好きに使っていい」
到着したのは龍助専用の部屋だった。
早速タッチ式のロックに手を置くと、音を鳴らしながらスムーズに開いた。
中は結構広く、トイレとシャワールームは別になっておりアパートの一部屋に近い構造だった。壁にはテレビもある。
「早速荷物を置いてね。行くところがあるから」
京の指示通り、部屋の隅に持ってきた荷物を置いた。
ここまで荷物を持ってくれた叶夜と颯斗に感謝をした龍助は彼らと共に部屋から出た。
◇◆◇
京が次に連れてきたのは、医療研究室と書かれた部屋の前だった。
「
ノックもせず、勢いよくドアを開けた京は千聖という名を呼んでいる。
龍助が中を覗くと、そこにはたくさんの本や書類が棚の中に収められたり、机の上に積み重なられていた。そこまで散らかっている訳ではなく、むしろ片付いていた。
「七坂さん。開ける時はノックしてくださいと言っているでしょう?」
すぐには気づかなかったが、ドアのすぐ横に机があり、そこで何か作業をしていた男性がいた。
身長はだいたい百七十三センチくらいで細すぎず、太すぎずといった普通体型だ。白衣を着ていたがよく似合っている。
「あー悪い悪い、
当の本人は、特に反省している様子もなく、あっけらかんとしていた。
軽く詫びた京は軽く受け流し、話を切り替える。
彼の質問に秋蘭と呼ばれた男性はため息を吐く。
「千聖さんは今……」
「こんにちは、どうかされました? 京さん」
秋蘭が何か言おうとしたその時、穏やかな口調の男性の声がそれを遮ぎった。
同時に奥の一つのドアが開き、中から
パッと見好青年という印象だ。
「やあ千聖。相変わらずおとなしいね〜」
「そんなことありませんよ。研究で忙しくしております」
京が軽い口調や態度で接するが、千聖という男性は落ち着いており、笑顔で答えている。
「それで、何か御用ですか?」
本題に戻した千聖に促された京は龍助を前へ引っ張った。
「この子、新しく入った天地龍助くんです! 手続きしてやって」
京が龍助に寄りかかり、体重を乗せてきた。全体重を乗せられて龍助は最初重く感じるが、能力のおかげですぐに重さの感じ方が変わり、軽いと感じるようになっていた。
龍助を差し出された千聖は
その視線は鋭かったが、なぜか不快には感じなかった。
「僕は構いませんが、貴方の方が早く済むのでは?」
「まあね〜、でも俺はこの子達と授業しないとだから」
千聖の言葉に対しても京は相変わらずの軽い口調で返した。
その会話に龍助はついていけなかったので、スルーした。
「分かりました。手続きは僕がしておきましょう。ただ、僕達はここに所属しているわけではないので」
「分かってるよ。今回だけ、ね?」
京がふざけた感じで言ってきたが、千聖は気にする素振りもなく、ただ柔らかく笑っていた。
「京さん、仮にも『スタークラスターズ』の序列五位なのにね……」
「それは関係ないよ〜」
叶夜に突っ込まれた京だが、これをも軽く受け流した。しかし、龍助は関係がない話なのに、叶夜が口にした単語が頭に残っていた。
「スタークラスターズって何?」
「力者の中でも特に優秀な人に与えられる称号よ」
気になったのは「スタークラスターズ」というワードだ。
それを分かりやすく叶夜が教えてくれた。
それを聞いた龍助は一瞬耳を疑ったが、病院での出来事などを考えるとありえなくもないなとも思った。
「そういえば自己紹介をしないといけませんね。僕は
千聖の瞳は優しい黒色で龍助の姿をしっかりと映していた。
その視線は龍助にとって何故だかとても暖かく落ち着くものだと感じた。
彼がこのような気持ちになったのは、昔よく施設で遊んだり、お世話をしてくれた少し年上のお兄さんと一緒にいた時以来だ。
それにどことなく千聖の雰囲気がその人に似ているとも感じていた。
「あの……」
じっと千聖を見ていると、その本人に声をかけられて龍助は我に返った。
「ああ、すみません、俺は天地龍助です。これからお世話になりますのでよろしくお願いします」
「よろしくお願いしますね。こっちは助手の
「よろしく」
千聖に紹介された秋蘭は笑顔で挨拶してくれた。
先輩後輩関係の二人はTPBに所属しているわけではなく、ここの責任者と知り合いらしい。
色々と助けて欲しいというお願いを聞いて、研究室を貸す代わりにサポートをしているようだ。
お互いの自己紹介が終わると、千聖が龍助の顔を覗いてきた。
「な、なんですか?」
「あなたの魔眼、結構制御が難しそうですね……」
まだ出会って数分しか経っていないのに千聖は龍助が魔眼保持者だと言い当てた。
京といい千聖といい、ベテランは見ただけで魔眼がわかるものなのかと龍助は驚愕した。
「もし必要でしたらこのコンタクトレンズを使いますか?」
そう言いながら千聖は背後の机の上に置いてあったケースを取り出し、龍助に中身を見せた。
姿を見せたのは二つの小さな透明の膜だった。
「これは?」
「魔眼の力を抑えるコンタクトレンズです」
龍助の質問に千聖が手短に説明した。
どうやらこれをつけると赤い丸印を見ないで済むようだ。
このコンタクトレンズには特殊な魔法がかけられているので、魔眼の力を抑えてくれるらしい。
実際に魔眼保持者でつけている人は多いとのこと。
龍助は少し考え込んだ。これがあれば、魔眼の視界に悩まずに済む。
悩み込んだ末、答えが出たようで千聖を真っ直ぐに見た。
「ありがとうございます。でも俺は大丈夫です。これに慣れてしまったら外した時が大変だろうし」
龍助は、差し出されたコンタクトレンズを受け取らなかった。
つけているときはいいだろうけど、外した時がまた大変だからだと彼は言う。
このような便利品に頼るのもいいかもしれないが、慣れすぎて依存してしまったら、いざって時に自分自身で対処が出来ないと考えたからだ。
だから、コンタクトレンズで抑えるのではなく自分で制御できるように努力することを龍助は選択した。そのためにここへ来ているのだから。
「素晴らしいですね。貴方ならきっと制御出来ますよ」
千聖が優しい笑顔でそう言ってくれた。
その表情にも龍助の視線は奪われた。
(この人、もしかして……)
咄嗟に龍助は目の前の人物にあることを問いかけようとしたが、それを飲み込んだ。
今質問しても、相手も自分も混乱するだけかもしれないからだ。
(本当に似ているな……。あの人に)
ある一人の人物を思い浮かべた龍助はその視線をじっと一人の男性にに向けていた。
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