第11話 TPB
穂春達と二週間程お世話になった病院とお別れした龍助は京達が所属している組織へ向かっていた。
「さて、早速だけど君たちの自己紹介をしようか」
京が突然龍助達に自己紹介を促してきた。叶夜は乗り気だったが、颯斗はその反対で面倒くさそうにしていた。
ちなみに乗客は龍助達だけで、四人は一番後ろの席に座っているので、会話は運転手には聞こえない。
まず最初に龍助が自己紹介をすることになった。
「えーと、俺は天地龍助。まだ能力に目覚めたばかりの力者?」
緊張していたのか龍助は少しぎこちなく話した。自身で力者と名乗るのに少し違和感も感じている。
「私は
龍助の次に、叶夜が生き生きした様子で明るく自身の名前を名乗った。
叶夜は、一年前に龍助と同じく通り魔事件に遭い、そこから力に目覚めたという。
「魔法が使えるの?」
「うん! 結構強力な魔法も使えるよ!」
満面の笑みでハキハキと自己紹介をしている叶夜。
大きくも小さくもない丁度いい
魔法や術などに関しては少しややこしいらしく、また機会あるうちに説明してくれるそうだ。それに関しては龍助も興味津々なので、楽しみにしていた。
叶夜は積極的に自身のことを教えてくれたが、それに反して颯斗はずっと窓の外を眺めているだけで何も喋ろうとしない。
「ほら、自己紹介ぐらいしなさいよ」
いい加減にしてほしいと言いたげな叶夜が颯斗の肩を叩きながら自己紹介を促した。
観念したのか颯斗はため息を吐きながらも口を開く。
「
名前と力者だということだけ伝え、それ以上は特に話さなかった。叶夜は呆れていたが、颯斗は気にする素振りもなかった。
「もう喋っちゃうからね」
「……」
仕方がなく叶夜がそう颯斗に確認したが、本人は無言という答えしか出さなかった。それを了承と捉えたのか叶夜が遠慮なく話だす。
「颯斗は、昔交通事故に遭ってから力が開花したらしいの。この人は主に術を使うわ」
叶夜はスラスラと颯斗の情報を教えてくれた。当の本人は変わらず黙っている。
(喋るのが
そんなことを考えた龍助は二人の温度差に驚くばかりだった。
◇◆◇
「次で降りるよ」
そう言いながら京が停車ボタンを押した。押してから次のバス停までは数分も掛からず、あっという間にバスが停まった。
最後である龍助がバスから降りると、どこにでもある町の風景が目に飛び込んできた。
「こっちだよ」
京を先頭に歩き始めたかと思えば、近くのビルの裏にある道に入っていった。
どこに入って行くんだと謎に思った龍助だが、突っ立っているわけにもいかず、仕方なく彼らの後に続いた。
裏道を進み、右、左、右と何度か曲がった後に人気も何もない広めの敷地に出た龍助達。
「着いたよ」
京が龍助の方に振り返りながらそう言ったが本人は困惑する。
「着いたって、何もありませんけど……」
「君の魔眼なら見えてるはずだけど?」
龍助の疑問に京が自分の目を指しながらもう一度見てみるように促した。それに従い、龍助はもう一度目を凝らすように見てみた瞬間目を見張った。
空中にはっきりと赤い丸印が見えているのだ。それを見て、龍助は一つの疑問が浮かんだ。
(以前は空中だとうっすらとしか見えなかったんだけどな)
病院の時や、先ほどまでは空中に見える丸印は全て薄かったが、今目の前の空中にははっきりと丸印が見えていた。
「いや丸印は見えるけど、何もないよ」
丸印は見えているが、それ以外は何もない。先程の疑問を含めて京に質問を投げつけた。
「そりゃ、結界が張ってあるからね」
あっさりと答えてくれた京。
彼が見えていた赤い丸印は結界の弱点となる場所なんだと教えてくれた。
「さあ入ろうか」
京が指を三回鳴らすと、突然目の前の空間が歪み始め、ゆらゆらと揺れた後に隠されていたものが姿を現した。
大きくてビルのような建物だ。こんな隠れるような場所には建ってなさそうなほど大きい。
まさしく場違いという言葉が似合うビルだなと龍助は思う。
京と叶夜、颯斗が入って行くので、慌てて龍助も後に続いた。
◇◆◇
「ようこそ。TPBへ」
入った途端に京が楽しげにそう言った。
建物内を見回してみると、かなりの広さだった。とてもビル一つだけの広さとは思えないくらいで、まるで異空間に入ったようだ。
人も多く、今いる場所でもいろんな人たちが行き交っており、中には白衣を着ている人たちもいた。
(この人達全員力者なのか?)
沢山の人がおり、全員が力者、あるいは関係者なのは間違いない。
こんなに力者に関わりがある人がいることに驚きを隠せなかった。
そんな龍助をその場の人たちがジロジロと見ていた。その視線に龍助は少し怯んでしまう。
「そのうち慣れるさ。ここは悪い力者はいないからさ」
京が龍助の頭をポンポンと軽く叩いた。
それを受けた龍助は少しだが気が楽になったのを感じた。
「ところでTPBってなんの略なの?」
「結構長くてね。正式名称は『ゾーズ・フー・プロテクト・ザ・バランス』なの」
仕切り直した龍助が聞くと、叶夜が正式名称を教えてくれた。
かなり長ったらしい正式名称に龍助はすぐに理解は出来なかった。
なぜこんな名前にしたのか小一時間問い詰めたいとも思った。
「ちなみにこの意味は『秩序を守る者』よ」
「秩序を守る者」を英語にした組織らしく、その意味が少し気になった龍助。
どの道単純で覚えやすいと思う反面、あまり面白味がないとも龍助は思う。
「あ、今面白みがないと思ったね?」
京の指摘を視線を逸らすことで誤魔化した龍助だが、京に対してはなんの意味もない。
「まあ、俺も同じこと思ったけどね」
京が何か遠い目で意味もない場所を見つめながら小さく呟いた。それを龍助はあまり突っ込まない方が良いなと判断したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます