第7話 無名の魔眼
「まずは、君の傷を治さないとね」
手から光る縄のようなものを出して、倒れているひろしを拘束した京がそう言いながら龍助の額に人差し指を押し当てる。
すると一つの光を発光させると、彼の体の痛みが無くなった。
先ほども痛みは和らいだが、今度は完治したので、痛みが完全になくなった。
傷が無くなったことを確認し、額から指を離した京が拘束されているひろしに振り返り、じっと見つめている。
「こいつはTBBの下っ端だ。聞くことが色々ある」
「TBBって何?」
「それはこれからゆっくりじっくり話すけど、まずはこれを直さないと」
龍助が気になったことを聞いたが、その質問は後日に回すと京が軽く流した。
それよりも深刻そうな表情で親指を背後に指した。
それを追って京の背後を見た龍助は目を見張った。
京が指したのは、一面ヒビだらけになった床だった。そこは先ほどひろしが仕掛けた光の円があった場所を中心に広がっていた。
「何でこんなことに……」
龍助はただ床を見つめることしかできなかった。
まさかと思いつつも、自身の予想が間違いであると言って欲しくて京を見るが、彼はあっさりとその結論を口から出した。
「ああ、さっきの拳が原因だね」
それは龍助の願いを打ち砕く一言だった。
しかし本人は現実逃避をするかのようにまだ納得していなかった。
確かに力強く叩きつけたが、こんな広範囲にヒビが入るほどの力はないはずだからと。
そのことを京に伝えると少し呆れた様子を見せられる。
「また忘れたの? 君には能力も備わってるんだよ」
その言葉に、龍助は自分自身が「肉体の力」を有していることを思い出し、彼の頭に一つの可能性が浮かび上がってきた。
「まさか……」
「修行を頑張るしかないね。」
京が気の毒そうに言いながら龍助の肩に手を軽く置いた。
実は龍助が先ほどの戦闘で負っていたダメージが和らいだのも、拳の威力が強くなったのも、全て肉体の力が龍助の意志関係なく発動してしまったからだ。
ダメージが和らいだのは肉体の抵抗力が上がったため。
拳が強くなったのは肉体が硬くなったのと同時に筋力も上がったからだ。
それだけでこんなになるものかと龍助は自分の能力に対しておぞましさを感じた。
「まあでも、これを治すのは俺に任せて、こういうのは得意なんだ」
京はそう言いながら青ざめていた龍助の頭を軽く何度か叩いた。
こうしてみると、京は龍助より数センチだけ身長が高いのが分かる。
龍助は泣きそうな顔で心配していたが、それを気にせず京は床の方を見た。
すると突然彼の目が青く、または白く光り出した。
そして、それを合図と言わんばかりにヒビが入っている床の中心から端にかけて綺麗になっていく。
最後にはあっさりとヒビが跡形もなく消え、すっかり元の床に戻った。
かかった時間はなんとほんの数秒だった。
龍助は一瞬思考が停止していたが、すぐに我にかえり、京に少ない言葉で話かける。
「今のって……。もしかして」
「そう、魔眼だよ。俺も持ってるんだ」
京は龍助の反応が面白かったのか、愉快そうに笑いながら自分の目を指した。
「ちなみに俺のは『
京が持っているのは、「無名の魔眼」と言って、簡単に言えば、万物のものを見ただけで無かったことに出来る。
今も傷ついた床を見てヒビが入った事実を無しにすることで、元の状態に戻したのだ。
これだけでもとんでもない力なのに、それ以上のことが出来ると京は言う。
一通り聞いた龍助は目の前にいる力者が実は神様なんじゃないかと考えた。
そうでもなきゃこのように無しにすることなど普通の人間には不可能だからだ。
(……色んな魔眼があるんだな)
これ以上分からないことを考えるのは疲れるので、龍助はもう受け入れることにした。
もしかすると、自分が知らないだけでこの京という男の他にもとんでもない力を持っている人間はいるかもしれないと思った。
そう考えるとある意味ロマンがあるなと
「ところで、龍助は自分の力を制御できるようになりたい?」
突然の質問に高揚していた龍助は我に返り、質問の意味を理解した。
今の状態では、能力などを制御できるようになるのはまず不可能だ。
これを出来るようになりたいかと問われているのだ。
「なりたいです」
なんの迷いもなく龍助は即答した。
「施設からしばらく離れることになっても?」
思いもよらないことを言われ、龍助は一瞬思考停止してしまった。
能力などを使いこなせるようにするためには、まず全く関係がない人間から離れないといけないと京は言う。
もし何かあったら怪我を負わせたり、最悪殺してしまう可能性もあるからだ。
龍助はしばらく考え込んだ。
穂春達と離れてでも能力を使いこなすか、このまま制御出来ないままでいるのか。
「前も言ったけど、君は戦えるように力を使えるようにならないといけないんだよ?」
語りかけてきた京の声は真剣だ。
前回も言われたように、敵が今日と同じように襲って来る可能性が高い。
だから、これを撃退出来るようにならなければ大変なことになる。
「……やります!」
京の言葉を取り入れ、必死に考えた末に、龍助は修行をすることを決めた。
制御が出来なければ、いずれは絶対に穂春達を傷つけてしまうと考えたからだ。
それだけは絶対に回避したいと龍助は思った。
「覚悟は決まったようだね?」
京の質問に龍助は力一杯に頷いた。
どんな状況になろうと必ず立派な力者になると決心した。
そのために必要な覚悟をすることも。
「よし、良い判断だ! 大丈夫。君なら出来るよ」
軽い口調だったが、本心から言っていると龍助は感じた。
「じゃあ、今日はもう寝な」
そう言いながら京は龍助の顔面の前に右手を差し出し、指を鳴らした。
その音は脳に柔らかく響き、とても心地よく、優しい何かが龍助の頭を包んだ。
音を聞いた直後、意識が遠のいていき、龍助は倒れ込んでそのまま眠ってしまった。
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