第2話 依頼
「失礼します、父上」
「お入り」
声をかけ、部屋の奥から返事がある事を確認し董路がからりと襖を開けると、十畳程度の書斎には
文机に座る男の方は
手前の
董路よりもやや目つきは鋭いがやはり端正な顔立ちで、丸いメガネが彼の実直な印象を強調している。
董路の父であり浦田家当主
今はどうやら二人揃って洋式の帳簿に向かって何やら記している。
「まぁお座り、董路お前、やっちゃんにまた叱られとっただろう。
楽しそうな声がよく響いてくるよ」
「いえ、あれはやっちゃんがかしましいだけです」
「お前がきっかけをくれてるんだろうが」
大真面目に言い放つ董路に、まったく、と時一朗はため息をつくが怒っているわけではない。
口の端がうっすら上がっている。
表向き厳格を装っているが、その実笑い上戸で懐が深い男である。
無論、董路としても八千代については冗談以外の他意などない。
「八千代さんもそう暇ではないのだから。
視線は机に向かったまま、兄晴劤もやんわり父に加勢する。
二体一では分が悪い。
董路は晴劤の向かいに腰を下ろすや早速本題に入った。
「で、御用とは」
「ああ、お前に依頼だよ」
時一朗の一言に、その場はにわかに真剣な空気で満ちた。
浦田家とはもともと神職の
当主の商才かはたまた審美眼の賜物か、いずれにしてもその後もお
が、もっと古くは平安の前から
時代が流れ、特に先の国を揺るがす
董路とは血脈の中でも
そも、浦田や縁故ある一族の中には、古来から人の因縁や人ならざる
一族ではいつからか、人に害なす念やこの世のものではない存在を総じて
平安の頃、他に類を見ない強烈な霊性を宿した「
数多の障りをほとんどひとりでも蹴散らせるほど強力だった彼女への信頼は厚く、今と比べ物にならないほど多くの相談事が、昼夜も問わず寄せられていたと未だ伝え聞くほどである。
惜しむらくは彼女は早世であった。
その霊性は子孫らへ継がれるものの、代を経るごとに力は徐々に弱まっていった。
ところが数代に1人、時折始祖様に似た強い霊性を持つ者が生まれる。
浦田董路こそが今代のそれであった。
浦田本家や浦田に連なる分家の中でも内情に精通した一部の人間たちにとって、彼はこの血脈を守るための切り札であり、同時に護るべき特別な存在であった。
董路が産まれた折の当主、時一朗の父を筆頭に総出で董路を
父から渡された
「
…まぁ典型的な人の障りっぽいけどなぁ」
「私も同意見だ」
時一朗が頷く。
晴劤も口を挟まず、先ほどから変わらずに背を紐で括った紙束をぱらぱらとめくり何か書き込んでいる。
これといって違った見解は無いらしい。
事のあらましはこうだ。
*3話は明日同時刻に投稿予定です*
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