第3話 断定

 昼過ぎの喫茶店サボタージュは、遅めのランチ客、食後のコーヒーブレイク客でごった返していた。

 店の入り口から程近い、観葉植物に領有権を握られかけた狭めのテーブル席。近頃の秋穂の変化について、親友の高辻に相談していた義村は、ちょうど1番聞きたくなかった言葉を浴びせられていたところだった。


 「だから、浮気だよ!う・わ・き!!」


 高辻はなぜか嬉しそうである。親友である自分が真剣に相談しているにも関わらず、なんだその態度は、と少し不貞腐れた。

 氷が溶け、ぬるくなり始めたアイスコーヒーをクイッと一口飲み、義村は気持ちを立て直して反論した。


 「でも、秋穂がそんなことすると思うか?お前も知ってるだろ、秋穂がどんな子かって。浮気なんてする奴じゃないだろ、どう考えても、、」


 義村は自分の本心に目を背けるように、気づかないふりをするように、か弱い声で言った。


「いいや、クロだね。ああいう純朴そうで一途っぽい子ほど実は遊びがちなんだよ。しかも秋穂ちゃん結構可愛いからな、他の男たちも放っておかないだろ。しかも、お前は中の下くらいの顔だもんな。」


突然、自分への飛び火がきたことに少し面喰らいながらも、義村はなぜか納得してしまった。こんなことを言うのも変だが、自分の彼女、秋穂は側から見てもかなり可愛い部類だと思う。身長は166センチですらっとしたモデル体型。手足も細く、顔はいい意味で身長に見合わないような可愛らしさで、目がクリクリした小動物のようである。確かにあんなに可愛い女の子を他の男が狙わないはずがない。むしろ自分と付き合っていることの方が不自然だ。

 義村はもう1度ぬるいコーヒーを口に入れ、高辻の意見を無理やり受け入れるかのように喉に流し込んだ。


 喫茶店を出た2人は互いに別れを告げ、各々の家の方向に歩を向けた。

 高辻に相談して気持ちを落ち着けようとしていたはずが、逆に荒ぶってしまった義村は、気持ちを落ち着けようと徒歩での帰宅を決意した。

 人口50万人程度、県では2番目の中規模都市である丸川市。駅前に伸びている、サラリーマンが大半を占める大通りに沿って歩いていく。

 5分ほど歩くと、前方に某コンビニチェーンが見えてきた。あの店の奥を右に曲がって路地に入ると、自宅への近道になる。

 若干落ち着き始めた気持ちと比例して、足取りが軽くなった義村は、少しスピードを上げて路地に入った。

 路地に入り前を見据える。何かに気付いた義村は猛スピードで反転し、大通りに戻った。

 路地には秋穂がいた。知らない男と手を繋いで歩く、自分の知らない秋穂がいた。

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