第2話 宮廷騎士団
アンリーゼ王国、富と権力を両方を兼ね備える大国。
金属や特産物などが豊富で貿易としてもよく使われ、王国を守る騎士たちも凄腕ぞろい。
特に宮廷騎士団と呼ばれるたった12人で構成された騎士団は世界で猛威を振るっている。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
叫びながら剣を振るう一人の騎士。その軽やかな動きから只者ではないことは一目でわかる。
だが、そんな騎士の攻撃をその場で一歩たりとも動かず、訓練用の剣で受け流さす騎士がいた。
真っ黒な黒髪に瞳、細見からは信じられないほどの身のこなし方。目の前の大きな体つきをした騎士をいともたやすくいなす剣の技術。
そのすべてに観戦する人たちは注目した。
「あれが噂の?」
「ええ、つい1週間ほど前、宮廷騎士団に加入した騎士ウル・アルバゼルです」
「あのアルバゼル家ですかっ!?」
驚くのも無理はない。
アルバゼル家はここずっと落ちぶれた家系と言われていたからだ。
だが、そんな言葉がなかったかのように、その場の模擬戦が繰り広げられる。
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ、これならどうだぁぁぁぁぁぁ!!」
体からあふれ出る青色の光に騎士たちが盛り上げりの声を上げた。
その光の正体は魔力だ。
魔力を使えば人の限界を超えた力を得ることができる。
青色の魔力は心臓から手へそして剣へと奔流し、剣に青色のオーラを
そして騎士ウルにむかって剣を振るった。
しかし、そんなこと関係なしに平然といなした。
「なぁ!?」
いなされた騎士はそのまま体がもっていかれ、地面を膝につけた。顔を上げれば、首元に冷たい剣先を向けられる。
「…………これで終わりですね」
「ま、参った」
模擬戦の勝敗はついた。だが、一切の喝さいの声は上がらない。
やりすぎたかな?でも、ちゃんと手加減はしたしな。
模擬戦が終わると観戦していた二人の間に一人の男が会話に入ってきた。
「どうですか?私が選んだ騎士は?」
「こ、これはこれは宮廷騎士の団長、ガレウス様ではありませんか」
変な静けさに見舞われた空気感を一瞬でかき消すかのように現れたのが、宮廷騎士の団長、ガレウスだった。
騎士ならだれもが憧れる最強にして騎士の鏡。
数多くの戦争を生き抜き実績を残した誰一人文句を言わない怪物だ。
「いや、実に素晴らしい騎士ですよ、ウルという騎士は」
「そうですか、それは良かった。…………しかし、この感じだとウルっ!また手を抜かなかったなっ!!」
聞き覚えのある声に背筋がピッと伸びた。
どうして、こんなところにガレウス団長が。
「え、いや、手を抜いたつもりですけど」
「…………なら文句ないっ!」
なんだ一体っと思ったが口にしないことにした。
「それより今日はこれで任務は終わりですか?終わりでしたら帰りたいんですけど」
「まだ王族の護衛があるだろうが!」
「あ、そういえば、そんな仕事があったような?」
「はぁ、ウル、まさかまた今日の任務を確認していないのか?」
「はい、してません」
「わかった。ちょっとだけ待っていろ」
「わかりました」
宮廷騎士とは思えない言動に思わず、周りが目を見開いた。
「すいません、ウルのことは私がしっかりと教育しておきますので」
「いえいえ、そんなことは…………しかし、あの騎士ウルは紛れもない天才ですな」
騎士ウルは宮廷騎士に選ばれる前からかなり有名だった。
龍の単独討伐に成功し、王女様の暗殺を阻止、ましては七厄災の一人、愛の聖女メシルを退けた。
その実績だけを見れば、宮廷騎士団の団長を凌ぐとまで言われている。
「そうですね、あはははは」
「宮廷騎士団、これからさらなる活躍に期待しておりますぞ」
「ありがとうございます。それでは私はこれで…………」
世間話が終わり、通り道を歩くと騎士ウルが待っていた。
「遅かったですね」
「少し長引いただけだ。さぁ、王女様を迎えに行くぞ」
「はい」
「しかし、ウルが宮廷騎士団に加入して1週間、もう王城内ではウルのことで話が持ちきりとはな」
「別に興味はありません」
「少しぐらい興味を持て。全くつまらんな、ウルは」
「ガレウス団長は面白さを求めているんですか?」
「その方が騎士団全体の士気が上がるだろ?」
「そうでしょうか?」
「そうだ。たくさんの戦争を経験した俺が言うんだ。間違いない」
「ならそうなんでしょうね。でも俺はアリシャ以外興味ないので」
「またアリシャか。本当に重度なブラコンだな」
「ほっておいてください」
アリシア・アルバゼル、ウルの三つ下の15歳の妹。
ウルが任務以外でしゃべることは基本的に妹のことばかりで騎士団でも重度のブラコンでよくいじられている。
「よし、ここで待機だ」
足を止めた場所は金で作られた門の前だった。
しばらくすると、ゆっくりと門が開き、俺たちは頭を下げた。
「お迎えに上がりました。ニフィア王女様」
ニフィア・アンリーゼ第一王女、王家の中で長女にあたり、かなりの権力を持つ才女。学園では常に成績トップ、妹たちに慕われていることで有名だ。
「宮廷騎士のみなさん、顔を上げてください」
俺たちはニフィア王女の言う通り、顔を上げると、騎士ウルの手を握った。
「あなたが宮廷騎士のウルですね」
「あ、はい」
「あの時はありがとうございます」
「いえ、当然ことをしたまでです」
「それでもお礼を言わせてください。暗殺者から守ってくださり本当にありがとうございます。ぜひ、機会があればお茶でもしましょう」
騎士ウルには、王女様暗殺の阻止という実績がある。
その暗殺者に狙われていたのがニフィア王女様だ。
…………たまたま侵入者を倒したら、それが王女様を狙う暗殺者だっただけなんだけど。
そうあの時、まだ宮廷騎士団に加入する前、任務遂行のため見回りをしていた時、たまたま侵入者を見つけて倒したら、それがたまたま暗殺者だった。
しかも、暗殺者の自白により王女様の暗殺を阻止したことにより、俺の実績になった。
偶然が偶然を呼んだのだ。
「それでは参りましょうか」
宮廷騎士団の任務はいろいろがあるが、もっとも重大な任務は王族の護衛だ。
このように王族がどこかへ出向くとき、かならず宮廷騎士団の二名が同行する。一人は団長、もう一人は団長が決める。
護衛以外だと魔物の討伐や王族以外の護衛など、たまに騎士たちの訓練に付き合うなどがある。
「疲れた…………」
「この程度疲れたなど言うな。そこまで移動していないだろ?」
「ニフィア王女様の対応のほうですよ」
「これは気に入られた者の宿命だな。観念しろ」
「うぅ…………」
護衛任務が終わり、夜空は星空で輝いていた。
もう一日が終わった。
宮廷騎士団に加入してから、さらに1日が短くなったような気がする。
任務を終えると宮廷騎士団専用の訓練場に二人は訪れた。
「よし、今日の任務終わりっ!さぁ、ウル、一発やるか?」
「はいっ!やりますっ!」
「あはは、いい気合いだ」
任務は大変だし、妹との時間も減ったし、宮廷騎士団に加入してからいいことなんて一つもない。
けど、それを加味してもこの時間は価値があると俺は思っている。
それは、3日に一回だけの団長との実戦訓練だ。
「俺はいつでもいいぞっ!!」
「…………いきますっ!!」
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