第250話

 ショパンコンクールはその名の通りショパンの曲しか許されていないが、ここがまた難しいところでもある。というのも、ロマン派の彼ではあるが、バロック寄りの性質も持ち合わせており、どちらで判断するのかが人によって違ってしまう。


 そのため他のコンクールに比べてもより、審査員の好みが出てきてしまいやすいと言われている。出場する際の運によるところも大きく、回が違えば予選敗退にも、優勝にもなりえるほどに揺れ動く審査基準。


 さらに回を重ねるごとに『ショパンらしさ』よりも『自分らしさ』を求める傾向にシフトチェンジしている、そう捉えることができる基準。


 ところでこの子は誰なんだろう。そろそろカイルも気になってきた。


「鋭いね。キミは?」


 ピアノについては素人のようだが、物事の本質を見抜くのが上手い、そんな印象。習い始めたらすぐに上達しそうな。


 興味が自分に移ってくれたことでリディアは少し満足。話の中心になれるのは嬉しいから。


「リディア・リュディガー。クラシックのことはよくわからないけど。人の考えを読むのは得意なんだ」


 その自己紹介に険しい顔を作るサロメ。最近知り合うヤツ知り合うヤツ、クセの強いヤツばっか。


「また変なのが……でもま、つまりそういうことよ。ショパンコンクールにおいては審査の基準は大きく分けて二つ。ブリジットのような『楽譜に忠実派』か『ロマンティック派』か」


 右手でピースサインを作り、二つの解答を示す。審査員の好みはあれど、基本的な部分はさすがにブレることはない。


 さらにカイルがより詳しく説明を加える。


「元は楽譜に忠実な、それこそいわゆる『ノイエ・ザッハリヒカイト』的、主観を排除して楽譜の音を再現することが良しとされるコンクールだった」


 もちろん、そのことについても学園一のショパニストを自負しているブリジットは調べはつけている。


「知っています。このコンクールそのものが、あまりにも自由すぎる、個々のいき過ぎたショパンの解釈を修正するために創設された、とも」


 でもそれも素敵なことだと思う。それぞれのショパン。絶対に面白い。


 自分達には全くもって関係のない話のはずなのに、饒舌になっていくカイル。調べ物は好き。


「もちろん。だが『そもそもショパンという人物が楽譜に忠実だったのか』というところが問題でね。弟子たちによれば、毎回毎回なにかしら即興で追加していたそうだ。なのですでにその理論は破綻している」

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