ペトロフ『ミストラル』

第239話

 楽器とは、大きく分けて『弦楽器』『管楽器』『打楽器』に分類される、と言われている。その中でもピアノは弦楽器であり、ハンマーで叩いて音が出ることから打楽器でもある。合わせて『弦打楽器』と呼ばれることも。


 基本的にクラシックはヨーロッパで生まれ、そこから派生をしていった。それは周知の事実であるし、ピアノの元であるチェンバロはイタリアから。そして各国に散らばっていったクラシックの源流。そこには当然国民性というものが存在しているわけで。


 ドイツなどは、作曲家の確固とした『精神性』を表現する場合が多い。ならばフランスは? 『聴衆に解釈を委ねる』という自由さが発展していった、と言われている。どこまでも自由に。縛られることなくお好きなように。


 そんなフランスはパリ、モンフェルナ学園。円形のそのクラシックホールの中心に置かれ、スポットライトを浴びるスタインウェイのフルコン。軽やかなピアノの音が鳴り響く。


「ラヴェル『高貴で感傷的なワルツ』。この曲はね、演奏会のために彼が書き起こした曲なんだ。誰が作曲したか。それを当てるクイズ形式でね。そして半数以上の人が——」


「エリック・サティと間違えた。知ってるわよ。つーか。なんでいんのよ。コンサートは終わったんでしょ?」


 定期の調律を終え、道具をキャリーケースに片付けるサロメが、演奏を終えたカイル・アーロンソンに問いかける。


 スタインウェイは調律の回数が他のメーカーよりも多い。さらに年に一回は数日かけてじっくりと整調からなにから行うほど。それがピアノの王たる所以のひとつ。終わりを名残り惜しむように、鍵盤の感触を確かめながらカイルは鍵盤蓋を閉じた。


「パリはね。そりゃ、ヨーロッパツアーなんだから。パリの一回で終わるわけないだろう? トゥールーズ、バルセロナ、ローマ、ブリュッセル。色々行くさ。それまで暇なんだよ、僕は」


 数日間の完全オフ。とはいえ、それまで一切触れないとなると演奏に支障をきたすだろう。名ピアニスト、ヴァレリー・アファナシエフは著書で『しばらく触れていなくても、三日四日練習すればテクニックは戻る』と言っているが、自分はそこにまだ達していない。


 だからこそ全てのピアニストに敬意を。それが彼の心情。例えそれが初心者のピアノだとしても。なにかしら参考になる部分があるはず。そんな風に歩みをやめない。永遠に終わりなどないのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る