第214話

 なんだか社長とサロメの間でアイコンタクトが交わされているのだが、そこをレダは読みきれずにいる。


「? 何を考えているの?」


「ま、詳しく話だけでも聞くのはアリね。ただ、アレクシス・デビラートの実力も知らずに今回の件、引き受けるのは面白くない。んで、メイソン&ハムリン」


 肩書きだけで調律師が務まるとはサロメは思わない。だからこそ、この状況を打開する案は全てを満たすことができる。自分も。社長も。ランベールも。ついでにレダも。あとたぶん店長も。


 箇条書きで羅列される情報。そこからルノーは推理をした。その結果。


「……まさかお前……」


「せっかくだから、見せてもらいましょーよ。減るもんじゃないし。一方的に向こうの条件のんでたまるかっつーの」


 ルールや倫理など知らない。全てがうまくいけば問題ないわけで。


 楽しい雰囲気だけはわかるレダ。そしてあらかたは理解してきた。


「やれやれ。やっぱり悪い子だ」


 吐く溜め息にも笑みが乗っかっているようで。そのまま気分と共に上昇していく。


「あ? これはランちゃんのためなの。わかる? 色々な調律師を見ておくのは重要。てことで。あとは社長、よろしく」


 それらしい言い訳を考えるのはサロメにとってお手のもの。まるでお店の未来を見通しているかのようだが、当然そんなわけはない。そっちのほうが場を乱せそうなので選んだまで。


 レダとしてもどちらかといえば予想外、想定外は楽しいし刺激があるわけで。視線を惑うルノーに向ける。


「そういうわけなんでね。どっちに転んでも面白いでしょ? 僕は支持しますよ」


 プラスして、気になることも色々とある。この提案はアトリエには悪いが、自分とサロメの二人の性格が捻じ曲がっていることが運の尽き。


 こうなるとなにを言っても聞かないヤツらだということを、付き合いの長いルノーは知っている。受け入れざるを得ない。


「……どうなっても知らんぞ」


 そんな悪態をつくわけだが、彼自身も気になる存在ではある。アレクシス・デビラート。果たして。『ウチの従業員として』、どんな調律を作り出す? というか、そもそもそれを受け入れてくれるのだろうか。もう知らん。

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