第164話
「チョロいわね。レンタル料もこれなら大したことなさそう」
あっさりと手懐けられたその姿に、こっそりと笑むサロメ。ただの大喰らいね、と自分のことは棚に上げる。
しかし、ガムを味わいながらもニコルはケンカを売られたと判断。
「ほぉ? それは聞き捨てならないね。一応こっちは世界に羽ばたく予定の調香師兼ヴァイオリニストなんだ。それなりの額を積んでもらわないと——」
「老舗ショコラトリー『WXY』のマンディアン。それをひと箱。どう?」
提案。サロメとしては五箱ほど買ってあるので、ひとつを交渉材料に。社長の金だけど。
……しばらくフリーズしているニコルだが、人気店のショコラ。目が高速で泳ぐ。そして。
「……まぁ……手を打とう」
ナッツやドライフルーツなど、四種類のトッピングがたっぷりと乗った、あの美味しいやつ。托鉢修道会、を意味する通り、白・茶・灰・紫の四派のカラーで、見た目にも美しい。誘惑に負けた。
あっさりと交換させられた姉の目は光を失う。
「……」
少しくらい悩んでほしかった。いや、悩んでというより拒否を。マネージャーとは? 買収されてますけど?
ここでサロメが全く話に上がってこない、もうひとつのピアノに話題を移す。
「てか。依頼されたのは違うピアノなんでしょ? そっちはなに?」
ペガサスとブランシュに集中してしまっていたが、元々のピアノがあるはず。こちらもなんとなく嫌な、それでいて甘美な一品。のような気がする。
レダも若干忘れかけていたが、こちらも少々特殊。あまり見ない形。
「あぁ、本番はこっち。『グラスホワイト』」
と、伝えた瞬間に空気がシン……となる。欠伸をしかけていたサロメも、口を大きく開けたまま止まる。目だけギョロっと、不敵に笑みを浮かべるレダのほうへ。
「……ったく、金持ちってのは……!」
そして今、この場にいない依頼主に噛み付く。骨ごと噛み砕いてやろうか、とすこぶる機嫌は悪い。
「……?」
話についていけていないブランシュ。当然、この空気も読み取れない。怒り、に近いサロメのオーラはなにゆえ?
それは妹であるニコルも同じはずだが、彼女の場合はそもそも読もうとしない。思ったことを口にする。
「なになに? グラス? 白いガラスでできてんの? ガラスでもピアノって作れるの?」
そのままわかる単語を組み合わせる。でも、運搬する時とか怖くない?
しかし、その数秒の間にブランシュにはひとつ、近しいピアノの絵が見えてきた。でもあれは。たしか、素材が木ではない、アクリルの樹脂で。
「……その、グラスホワイト、ってまさか……?」
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