第153話
今は店内には客はいない。ロジェも休み。ランベールは個人宅に向かい、店番となった二人。
「……で、どうだった?」
スッとコーヒーを口にするルノー。香りが良い。ロブスタ種にインドネシアの豆を使ってみたが、個人的にはかなり好きだ。引き続き、豆にはこだわっていきたい。
目を閉じて音をもう一度確認するサロメ。一音一音丁寧に。それで出された結論。
「……エストニア『クイーン・アン』。残念ながら、あれではない。ま、一発目から見つかるとは思ってないわ。次よ、次」
まるで水面にでも浮かぶかのように、ソファーに寝そべり揺蕩うサロメ。様々な想いが去来する。これまでのこと。これからのこと。そして今。
「そうか……」
明るく「コーヒーでも飲むか?」とルノーは誘った。こういう時はガツンとくる苦味で意識を切り替える。そうすると世界が開けてくる時もある。特別に淹れてやろう。
うん、と返事をしようとして、一瞬だけサロメは躊躇った。こんなこと、前にもこの人から。あの時は苦くて。あまり口をつけることができなかった。こういう時、少しだけ甘さが欲しい。結果。
「フラットホワイトがいい」
ピン、ときた。これしかない。
「……自分で作れ」
やってやるのはエスプレッソまで。フラットホワイトは、非常にミルク量がややこしい。作り方も細かい指示があり、そこまでやる義理はない。呆れたルノーは、そのまま奥の部屋へエスプレッソを作りに行く。
「ケチ」
扉が閉まる。その音が微睡むサロメに決意をさせた。
次。次のピアノ。次のグランドピアノ。違うのならばその次。そしていつか。そこに。あなたの証が——。
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