第136話
もうひとり。俺のことか? なぜかランベールは申し訳なさに襲われる。が、なんの? やっぱり否定しておけばよかったか、と後悔してきた。それと、質問の量がエグい。ほぼこいつの聞きたいことばっかりで、ラリーができない。きっと卓球ではスマッシュばかり狙うヤツ。
電話を切ったサロメはソファーに崩れ落ちた。しばらく天井を見ていたが、ふと目の前の男に声をかけてみる戯れ。
「で?」
足を組んでリラックス。しかし声は怒気が内包されている。
で、と言われてもランベールはなんのことかさっぱりわかっていない。
「……どの話だ?」
そもそもなにを聞かれていたかすらうろ覚え。行くのか? 名前は? 以外になにを聞かれたっけ?
「朝食よ朝食。早く。買ってきて」
お腹が空くとより人は凶暴になる。サロメにとって今はまだ落ち着いているが、もう間もなく。なにが、とは言わないけど。
朝食……って、それは電話の相手と話していた内容じゃ? 理不尽さにキレそうになるランベールだが、まだ寝起きなのでそこまで力が湧いてこない。自分のぶんも、よく考えたら少し欲しいかもしれない。パティスリーくらいならもう開いてる。
「……まぁ……いいか……」
納得は一切していないが、外の空気も少し吸いたい。目覚ましにちょうどいい……いや、ちょっと待て。
「お前も来い」
ギリギリでやっぱり手下みたいに扱われることに違和感を感じた。食べたいなら自らの足を使え。
当然、それまで再休憩に入ろうとしていたサロメは拒否する。
「は? やだ。適当でいいわ。だいたい食べられる」
じゃ、とソファーでゴロゴロしながら静かになった。まだエネルギーが補給されていないので動けない。
「……」
もうランベールは流石に諦めた。パティスリーに爬虫類とかゲテモノ料理が置いていないことが、今ほど悔やまれることもないだろう。
外に出ると、まだ完全には起きていないパリの人々。昨夜の火照りはだいぶ落ち着いたようだが、どこかソワソワとした疼きを感じる。無理もない、あれだけはしゃいだのだから。すぐには抜けきらないだろう。鳥の囀りが耳に残る。
向かいの通りにあるパティスリー。車の往来に注意しながら渡り、店内に入るとすでに客がちらほら。やはりデニッシュなんかは朝は売れるようだ。そしてコーヒーカップ片手に『ティファニーで朝食を』のホリーのように、食べながら歩くのだろうか。こっちはパリだけど。
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