第128話
その後、風物詩ともいえるコンサートも終わりを迎え、日付が変わるまでもう少しとなる。が、この日はここからが本番。
「もうそろそろ二三時ですね。未成年をこんな時間まで確保しとくのも気が引けますけど」
だいぶ飲んだはずだが、全く顔色も変わらないレダが正論を述べる。あまり正しいことをしているとはいえない状況だが、街の熱気に押されてどうでも良くなっているのも事実。
だが、相当に出来上がってきたルノー。秘蔵のコレクションはかなり開けた。明日の朝が怖いが、知ったことではない。
「今日くらいはいいだろう。なんたってキャトルーズ・ジュイエだし」
そう、今日はキャトルーズ・ジュイエ。七月一四日。夏の暑さにやられて少しだけバカになる日。ではないんだけど本当は。
そして先ほどから気にしていた二三時になる。ここまできたら全部付き合う。ランベールは最初からそのつもりだ。
「たしか店の外から見えましたよね。花火」
少し離れたところにあるエッフェル塔。そこで花火が約三〇分間打ち上がる。これこそが最大の見せ場。充分にアトリエの外からでも見える。これで締めてこそ。
もう間もなく始まる。今日はダラダラと喋り、飲み、軽く食べ、花火を見る。結局仕事の話、というか他の楽器、クラシックについてなど、ピアノを中心とした会話になってしまっていた。最近のピアニストはどんな感じだ、コンクールは、往年の指揮者、名盤。話は尽きることはない。
少しだけ残っていた、何杯目かのオランジーナを飲み干すランベール。
「……なんかいいですね。アトリエの人間全員でこうやって。一年に一回くらいは」
年上ばかりだが、むしろこの人達だからこそゆったりと意見を交わせる。気兼ねなく自己主張。控えめに生きていたら、パリではやっていけない。来年もまたこうやって。思いを馳せる。
と、ここでルノーが改まる。咳払いをし、場を整えた。
「……あー、それなんだがな……」
「あれ? 聞いてないの?」
話がなんとなく噛み合っていないことに疑問を持ったレダが、社長と店長の顔を見る。ん? あれ?
少し静まり返る。ランベールもなにか不穏な空気を悟り、解決に走った。
「? なにがですか? なんか忘れてます?」
今日はこんな感じでゆるく食事して過ごす、と伝えられていた。懇親会というかなんというか、まぁただ飲みたいだけの人達。
気まずそうにロジェが言葉を濁す。
「……実はサプライズで伝えたかったんだけど、まだ到着してないみたいで……おかしいな、予定では二時間前には着いてるはず……」
唸りながら伝えた内容を思い返すが、やはり二一時。間違いない。なにかあったのだろうか、と心配する。夜のパリ、今日は人も多いのでいつもよりかは安全ではあるが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます