第41話
時刻は二〇時。フランスは閉店の時間が早いため、これ以降開いているのは相当限られてくる。まぁ、また来週来るし、その時でいいか、と気持ちを前向きにサロメは歩き出した。
「寒……」
満足のいかない一日だったこともあり、マフラーをしていても心の隙間から風が入り込んでくるようで、余計にサロメは寒く感じた。雪が降るんじゃないかとすら予想する。カフェオレだけでよく持ち堪えたな、と我ながら感心した。
寮に帰ると、遅くなったこともあり警備員には怪しまれたが、素通り。しようとしたところでサロメは止められた。名前とクラスを訊かれ、答えて確認。警備員からは「キミで最後みたいだ」と言われ、なんだか今日は一日モヤモヤする日だった。いつもはこんなことないのに。
「ただいま」
「おかえり。夜食? ありがと」
サロメが部屋に着くと、もう寝る二分前くらいのファニーがベッドでゴロゴロしている。半分寝かかっていたのか目を閉じたまま喋る。紙袋は音で判断した。
「ダイエット中はどこいったのよ」
呆れた様子でサロメは荷物を置いて着替える。さっさとシャワーを浴びて寝よう。なんか疲れた日だった。夜食の予定だったが明日の朝にでも食べよう。
「〇時台に食べればゼロカロリー理論」
現在の時刻二〇時五一分。いつもながらファニーの理論はめちゃくちゃだ。
「はい、ダイエットできない人の言い訳。てかする必要あるの?」
「アインシュタインは言った。『何かを学ぶためには、自分で体験するのが一番』。つまり、ダイエット中って言ってればどれだけ食べても太らない実験」
「アインシュタインも、まさかこう解釈されるとは思ってなかったでしょうね」
すぐシャワー浴びようかと思ったが、サロメはイスを見たら座りたくなってしまった。なぜだろう、倦怠感みたいなものがあるが、風邪でもひいたかな? と、目を閉じて瞑想しだす。
「てか、疲れてるね。お疲れ様」
「うん、もうシャワー浴びてすぐ寝るわ。それにしても、出入り口のチェック厳しくなってたけど、なんかあったの?」
一瞬寝かけたが、ファニーの声で目が覚めてサロメは飛び起きる。このままでは寝てしまう。寝るなら横になろう。の前にシャワー浴びよう。
「普通科の子が夜中抜け出してどっか行ってたらしい。たぶん、シルヴィ・ルクレール。しょっちゅう抜け出してるらしいんだけど、今回はランジス市場に行ってたっぽい」
情報通で通ってるファニーには、誰がどこで何をしてたかなんて筒抜けである。一体どこから情報が入ってくるのかわからないが、高値で取引されるネタもあるとかないとか、学園には噂が立っていた。
「知らない子ね。ランジス市場なんて許可証ないと入れないでしょうに。なにしてたんだかねぇ」
理由はわかったが、あたしまで巻き込まないでほしい、とサロメは口を尖らせた。その子に会ったらガツンと言ってやろうか。いや、どんな子なのか見た目もわからない。
「疲れた……」
シャワーを浴びてから寝る……
「水曜か……」
シャワーを浴びて……
「……しんど……」
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