第14話
「それにしても、前の調律師さんたら、そんなダメに見えなかったけど、酷い人だったなんてねぇ。人は見た目によらないわね」
ひとりごちたメラニーに対して、サロメは横に並んで一緒にピアノを見つめた。
「おばあちゃん、違うよ。たぶん、その人は金額と時間に見合った仕事はしてる」
トントン、とサロメは指でピアノの横板を叩いた。
「え? だってあなた達もその人の調律に不満があったじゃない」
思っていたのと違う反応が返ってきて、メラニーは驚いた。ランベールのほうを見ると、彼も同様にうなづく。
「僕もサロメに同感です。おそらく、もっとしっかりと調律をしたかったんだと思います。その証拠に、これです」
そう言い、ランベールはピアノの足下に潜り込んで指差した。その先には三本のペダル。
「ペダル? それがどういう風につながるの?」
どんどん疑問が膨らみ、急かすようにサロメに詰め寄る。
サロメは満面の笑顔で返すだけだ。説明は説明係の仕事だ、と。
「非常に丁寧に磨かれています。ペダル清掃は基本的に調律とは別になるため、やることはほぼありません。日本などではサービスでやる調律師もいるとは聞いたことありますが、フランスではまずないです」
「そうそう、耐水ペーパーやら金属タワシやらで磨いたあと、コンパウンドかけたりとか、正直いって面倒なのよこれ。注文されない限り普通はやらない」
二人の説明を聞き、メラニーも潜り込んでみる。たしかに、サビや汚れで黒ずんでいた気もするが、今は金色にピカピカと反射するほどに磨かれている。
「あなた達がやってくれたんじゃなくて?」
交互に見てメラニーは問いかけるが、二人とも首を横に振る。
「僕達はなにも。その方がやってくれたのでしょう」
「おばあちゃん、その調律師にどれくらいの時間で頼んだ?」
と、違う角度からサロメの質問が飛んできて、メラニーは一瞬脳みその違う部分を使っている感覚に陥った。フルに使い思い出す。
「え? そうねぇ……ネットで調べたら一時間くらいで終わることもあるっていうから、それくらいだったかしら。そのあとにマリー・アントワネットのお茶会があったのよ。楽しかったわぁ」
お茶会のことを思い出して、ニンマリしたメラニーに対して、二人はため息を吐いて納得した。やっぱりそういうことか、と。
「たしかに一時間で終わることもありますが、それは定期的に調律してあって、なおかつ限りなくスムーズにいった場合です。このピアノは……もう数十年前です。一時間で終わるわけがありません」
うんうん、とサロメも首を縦に振る。
「あたしでも無理。だから最低限の清掃や、壊れてたハンマーの交換くらいしかできなかったんじゃないかな。何個か新しいハンマーがあったし。むしろ一時間でよくやってくれたほうね」
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