第4話

 「ねえ、何で来たの?由美はもうあんたに会いたくないって。」

 「…来たくて来たわけじゃない。たまたま会っちまったんだろう?」

 「ノリ、もういいよ。別にあたし、この人のことどうでもいいと思ってるから。」

 「はあ…もう知らない。」

 「………。」

 私たちは押し黙っている。

 でもそれも仕方が無いことのように思う。

 今、三人でともに逃げている。一体、何から?それはともかく、私達はもう離れることはできなくなった。

 由美は、この男から離れるために逃げてきたというのに、やっぱり私たちはこうして一緒にいることしかできないのだった。

 「それで、これからどうする?」

 「どうするって、どっか行こうぜ。それしかねえよ。」

 「そうだね、アタシそう思う。」

 由美は、つっけんどんに言い放ち、そっぽを向いた。

 でも、私達は本当に、どこかへ行かなくてはならない。

 だって、人を殺してしまったのだから。


 「由美、行くよ。」

 「待って、まだ準備できてない。」

 「もうそんなのいいでしょ?あとでそろえればいいんだから。」

 この時はまだ、笑っていられた。

 けれど、それから数時間後に起こる悲劇は止められなかった。

 私たちは、その時に一度、人生を終えたのだと思う。


 「やめてください。」

 震える声は、かすれていた。

 「………。」

 私も、由美も、何も答えなかった。

 けれど、さらに続けて、

 「私が悪かったから、あんた達、馬鹿にしたから。」

 とも言っていたが、それも無視をした。

 私たちは、勢いのままに彼女に暴力をふるっていた。

 そして、それを興奮した様子で見つめているあいつが、後ろに控えていた。

 この女は、私達の知り合いだった。

 歪な関係を築いていた私たちを、見つけて侮り始めた。

 が、一番初めに怒ったのは私でも由美でもなく、その時に合流したあいつだった。

 「もういいでしょ?」

 悲痛な叫びだった。

 けれど、私達の何かがやめるという動作をさせてくれない。どうにか、手を止めようとしたけれど、ダメだった。

 結局、彼女は死んでしまったのかもしれない。

 だが、私達は逃げた、その場を後にした。三人で、一番一緒にいたくなかったかもしれないこの三人で、また人生を共にしなければならなかった。


 「コーヒー、買ってきた。」

 「うん。」

 一番悪質なのは、多分由美だ。

 由美は、巻き込まれたわけではない。

 彼女は私他の中で一番可哀想な女だった。人間だった。

 だから、放っておけなかった。

 それは多分、あいつも同じだったのだろう。

 由美の好意を素直に受け止め、手放さなかった。

 それがきっと、優しさだったのだ。

 とても、残酷だったけれど。 

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