第3話

 違うだろってずっと思ってた。

 俺はどっちかって言うと本が好きな大人しい少年だったように思う。が、覇者のように笑みを浮かべ、俺と母を殴り続ける奴を目の前にしたら強くならないわけにはいかなかった。

 そして、気付いたら親父はどこかへ行ってしまっていて、母は普通に働いていた。俺と、母は、父に殴られていたことなど無かったかのように笑いながら暮らしていた。が、が、でも、だから。

 「…やめてくれ。」

 悲痛な叫びだと思った。

 それは、とても客観的な感覚に近かった。俺は、だけど手を止められない。止める理由が思い当たらなかった。少しだけ悩んでいるのかもしれない、目にはしわが寄っていて悩んでいる様にも見えるだろう。

 が、「………。」

 次第に相手は声を出さなくなる。出せなくなる。しかし、殺しはしない。俺の中で、他人が完全にやられた、と思う点のようなものがあって、そこまで到達したのなら、とっととその場を立ち去る。

 もとはと言えば自分たちから俺に喧嘩を吹っかけてきているのだから、俺に何か訴えを起こす者はあまりいなかった。

 

 「はあ…。」

 ぼんやりと外を歩いている。

 俺にとっての平和とは何なのだろうか、あの暴力親父を叩きのめすことで家庭に平和が訪れた。そして、また俺に暴力を吹っかけてくる人間をこてんぱんにしている。でも、手を止めることはできない。

 それが俺にとっては生きるすべと等しかったから。

 けど、由美には悪かったなと思っている。

 由美は俺のことを好いていて、それは知っていたけれど、俺は人を好きになるという感覚が分からない。どうしてなのかも、分からない。

 ただ、好意のようなものが俺に向けられていることは理解できたので一緒になったけれど、ダメだった。

 ノリと、由美は俺の知らないところへと逃げて行った。

 俺はその時、少しだけ気付いた。

 俺は、もしかしたら由美よりも少し、ノリの方が好きだったのかもしれないということに。

 しかし、この殺伐とした感覚は一生晴れないような気がしている。

 だから、特に執着することもなく、この町を出ることにした。

 あいつらもいなくなったのなら、俺もいなくなろう。

 もはや、どこにも用なんて無かった。


 彼らが、彼女らがどこに言ったのかなんて分からない。

 けれど、僕は探さなくてはいけない。はあ、全くなんでこんなことしないといけないのだろう。

 なんて思うけれど、頼まれてしまったからには仕方ない。

 彼らは、彼女らは、どうやら罪を犯している。

 罪名は、殺人、といったところだろうか。


 

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