第2話
無茶苦茶じゃん、って思ってた。
けどさ、
「はあ…。ヤバい早くしなきゃ、もう!ちょっともう!!」
感情が高ぶると興奮して、顔を歪めながら憤るのはいつも通りの自分だ。
今日は由美に会わなくてはいけない。急がなくては、由美はもう限界だった。ノリが少し電話で話を聞いただけで、そのヤバさが伝わってきていて、もう待てないと思ったから必死に誘って、時間を作ってもらって旅行へ行くことにした。
由美の夫は、悲しい程にイカれた奴だった。
だがそいつは、ノリも知っている男で、由美とノリの幼馴染だった。
家が近く、姉御肌だったノリは、ちょっと弱気な由美のことが気になって仕方が無かった。それに、由美はものをよく知っていた。ノリの仕事だって、由美が本で読んでしていたことを、一緒になってやっている内に楽しくなって得意にすることができたからだった。
しかし、そんな由美が惚れた男は、ノリの最も嫌いな男だった。
何が嫌いかって、全部が嫌いだった。
本当に全部が嫌いだ。
全部が全部が嫌いだ、何があってこんなに人を憎むのかと思うが、ノリはあの男がとにかく嫌いだった。
「ノリ、いる?」
軽快な口調できた、奴だ。
「何?由美ならいないけど。用なら早く言って、玄関まで来ることは無いでしょ?
」
「…うるせぇなあ。」
「だから、何?」
「じゃあいいよ、帰る。」
「帰れ。」
と、こんな感じ。
とにかく、あの男は意地汚い奴だった。
ノリが、これほどまでに嫌っているのは、そして、由美がなぜこの男を好いているのか、それには理由があった。
「………。」
立ちすくんで足が動かない。
どうすればいいのかは分からない、だって、いつにも増して体は震えていて、心は止まってしまっていて。
「……ゴッ。」
嫌な音だけが響いている。
誰も、何も、話さない。
あいつの暴力性を見たのはその時が初めてだった。
一緒にいる幼馴染がその側面を見せたのはその時が初めてだった。
だって、声がない。
何一つない、冷静な顔、いや、ちょっと顔を歪めながら人を暴行している。
あの男は、何だ?
何一つ分からなかった、正しさなんてどこにもなかった。
ノリは、見たことを無いものにしようとしたのかもしれない。
それから、ノリの中にはあいつに対する嫌悪感だけが残り続け、何があったのかは蓋をされ心の中に沈んでいった。
「由美、来たね。」
「うん、でもノリ、何?アタシ別に、困ってないよ?この前は疲れてて、ちょっと愚痴っちゃっただけ。」
「うん、分かってる。でも行こう。」
多分、ノリの中の本能は由美を連れ出すことだけを最優先事項として捉えていたのだろう。
これは、ノリが失踪し、由美がいなくなった時の、ほんの少しの出来事だった。
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