第207話
時は一七世紀頃、宮廷の女性居住地であるハレムにて、半分は遊びのようなものとしてセラムが流行していた。そしてトルコやスウェーデンなどを経由し、時が流れて一九世紀。パリにて上流階級や貴族達の秘密の色恋沙汰として広まっていった、とも。
ここまではついていけているシルヴィ。賢くなった気分。
「なるほど。てことは、花は元々そういう風に使われてたってことか。どうりで愛やら恋やらっていう、花言葉が多いと思った」
恋愛のため、が始まり。その結果、今もなおその血を脈々と受け継いでいる。
「世界中に波及したわけだから、花言葉も国によって違ったり、真逆だったりする。結局は想いが通じるならなんでもいいわけだ。花言葉なんてのは、テイのいい売り文句かもね。絶対なんてものはないんだから」
続けるリオネルの声のトーンが若干下がる。花に込められた意思を否定するかのような意味でもあるため、自分自身の作り出す花を疑っていることにも繋がる。ひいてはフローリストそのものの足元が揺らぎかねない。
そのピリついた空気をシルヴィも敏感にキャッチ。フローリストも元は人間。稼がないことには、家族を養えない、ということもあるだろう。
「……じゃあ、嘘をついて売ろうとするヤツもいるってこと?」
口が上手ければ売れてしまう。それはなんか……嫌だ。少なくとも、シャルルもベアも。リオネルだってそうは見えない。本当にその人を思ってアレンジメントしているはず。
だが、言い出したはずのリオネルの見解はまた違うものとなる。そもそもの目的。それは『癒す』こと。
「いるだろうね。でもね、それを俺は悪いことだとは思わない。言った通り、花言葉はひとつじゃないし、確定もしていない。その人のために少し嘘をついて幸せになるのなら、そのフローリストは良いフローリストだと、むしろ俺は思う」
心の奥底にあるものは、この職業に就いているのであれば同じはず。だからこそ、結果だけを見ていきたい。花も人も十人十色。幸せを感じるための、優しい嘘は必要な時もある。
「嘘、ねぇ……」
愛や恋、と言われてもシルヴィにはまだピンとこない。そんな力あるの? と、その目つきから感じるのは訝しさ。
よし、とひとつ息を吐き、リオネルは例を見せる、いや、体感してもらうことに。
「愛や恋に花が使われているのは、なにもアレンジメントだけじゃない。誰でもできること。ほら、この花を使って恋愛を占ってみて」
と、店にある花の中からマーガレットをひとつ手に取り渡す。白い、小さな花。誰が決めたか『恋占い』という花言葉を持つ。マーガレット、占い、ときたらやることは決まっている。それは花占い。
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