第208話

 『フィボナッチ数列』というものがある。インドの数学者であるヘーマチャンドラが提唱し、一三世紀頃のイタリアの数学者、レオナルド・フィボナッチが『算盤の書』に記して広まった数列。では、それはどういうものか。


 『最初の数』と『二番目』に足した数字は『三番目』の数になり『二番目』と『三番目』に足した数が『四番目』の数になり……と続いていく数列。具体的な数字で言うと『一』『一』『二』『三』『五』『八』『一三』『二一』『三四』『五五』……と無限に続く。


 なぜこの数字が花と関係があるのか? それは、花びらというものはフィボナッチ数と密接に関係しており、理由は不明だがこの数字と適合する、というもの。大きさに関わらず、この法則が当てはまる。宇宙の神秘。この数字は映画『ダヴィンチ・コード』で地下金庫を開錠する際に用いられ、一部で有名になった。


 そんな中、なぜかマーガレットは花びらの枚数がランダムとなっており、この法則に当てはまらない珍しい花……と思われていたのだが、結局調べが進むにつれて『二一』枚ということがのちに明らかになった。だが、その名残もあって、マーガレットの花びらをちぎる占いが生まれてしまった、ということ。


 受け取ってジロジロとシルヴィは観察。が、意を決して花びらを一枚摘んだ。


「……じゃ、シャルルはあたしのことを——」


「ストップ。え、あいつ? あいつでいいの?」


 花占いは当然、相手のことを思い浮かべて花びらをちぎる。そこでリオネルの耳に聞こえてきたのは息子の名前。あいつ……! なぜか怒りが湧く。


 止められたことにシルヴィは首を傾げる。誰でもいいんじゃないの?


「そーだけど? 一番『男』ってなるのは、やっぱあいつかねぇ」


 うんうん、と難しい顔をしながら頷く。他に……と考えても思いつかない。とりあえずあいつでいっか。そんな程度。可愛いし。


 まだ理解が追いつかないリオネルではあるが、ここで止まっては話が進まない。仕方なしに許可。


「……まぁいいや、じゃ続いてよろしく……!」


 となると。きっとあのレティシアちゃんもそうなのだろう。なんだろう。ひとりだけならいい。それはいい。認めよう。だが俺だってあいつの年齢くらいの時じゃ、まだこんなにもたくさんの年上のお姉さんになんてことは……! 許せない。


 なにをこの人は戸惑っているんだろう? と悩みつつも、シルヴィは花占い続行。


「シャルルはあたしを『ちょっと好き』」


「うん」


 静かに首肯するリオネル。ここまではいい。ここまでは。

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