第31話 Step into yourself - E

 突然の衝撃で、頭を打ったようで、頭が痛いし、耳鳴りが止まらない。


 バックモニターを見るに、ヴェノムクローラーが飛んで伸し掛かってきたようだ。ヴェノムクローラーには飛ぶ機能は無い。しかし、数が多すぎて山のようになった上から運悪く飛び降りてきて、衝突したようだ。機体は今、うつ伏せ状態になっていて、メインカメラは真っ暗だ。


「蓮!」


 直ぐに、背中のヴェノムクローラーが斬り払われたので、機体を仰向けにして、ヴェノムクローラーの上の天井にレーザーを撃って、通路を封鎖する。一瞬だけでも、ヴェノムクローラーの足止めになるだろう。


 その隙に機体を起き上がらせて、再び走らせる。幸いなことにモニターを見る限り、機体の損傷はあまりないようだ。折角、機体を新調したばかりなのに、またスカウターを壊したら整備班の連中にさらに馬鹿にされるからな。


「大丈夫か!?」

「なんとか」


 意識を失うようなことが無くて良かったが、軽い脳震盪になっているようで、まだ耳鳴りが続いている。しかし、動けなくは無いので、そのままフィラースと共に蹴散らしつつ逃げる。


 どんなに逃げても、逃げ切れる気がしない。流石にヴェノムクローラーの数があまりにも多すぎだ。レーザー用の電力残量も残り僅かだ。あと撃てて2発か3発だろう。こうなったら、アニメ通りに倉庫をレーザーで撃って爆破するしかないか。


「フィラース、工場を爆破する」

「は?」

「確か、倉庫に火薬があったはず。だから、工場を爆破する」

「倉庫に火薬なんて、どうしてわかんだよ。それに、工場を爆破なんてしたら、柳と煌も巻き込まれるだろ」

「事前に伝えておけば大丈夫でしょ」

「そういうもんかよ……」

「こちらスカウター、ヴェノムクローラーを殲滅する為に、工場の爆発許可を」

「工場の爆破ですか?どのようにして、……はい、わかりました」


 突然、司令部の人が黙ったと思ったら、あの優しく渋い声が聞こえた。


「こちらディヤー。蓮、そこから右手にまっすぐ行った先に倉庫がある。そこに前の研究で残っていた火薬があるはずだ。そこをレーザーで撃ち抜いてくれ。爆発が起こり次第、直ぐに近くの運搬路からファイアストームを連れて外に脱出しろ」

「了解」

「フィラースは、蓮を援護しろ」

「了解」

「二人とも、無事に帰ってこい」

「「はい」」


 ディヤーの作戦通りに、右手の倉庫に向かう。ディヤーも倉庫に火薬があることを知っていたとなると、やはり爆薬を仕掛けたのはディヤーということだ。帰還したら、何故倉庫の事について知っていたか聞かれて面倒になりそうだな。しかし、後の事なんかより命あってのものだろ。


 何回か天井を崩落させてヴェノムクローラーから距離を取りつつ、倉庫に向かう。そして、倉庫を見つけるなり、レーザーで撃ち抜きすぐさま飛行形態になった。そのままファイアストームを捕まえて、すぐ横にある運搬路から飛び出す。


 爆風に乗りつつ、目の前にある障害物を全て撃ち落として上に上昇する。一度間違えれば、命はないかもしれない。しかし、引いたところで命はない。死を前にしているはずなのだが、今までと違って何だか妙なハイテンションになっている。きっと、頭を打ったからに違いない。


 兎に角、工場から無事に脱出した。


 こんな爆発する工場からアリソンや煌、柳は脱出できただろうか。崩壊する地下工場を見つつ、近くの平原に着陸する。その時、敵機が近づいてくるアラームが鳴り響いた。


 直ぐにそちらにカメラを向けると、そこにはグリムムーンの姿があった。


 グリムムーンは直ぐにレーザー砲をこちらに向かって打ってくる。狙いは私ではなくファイアストームだ。


 フィラースは直ぐに旋回して回避するが、左腕部を飛ばされる。グリムムーンはそのまま、レーザー砲を撃ちながら近づいてきた。援護するべく、歩行形態に変形して、レーザー砲を向けるが、残念なことに電力はもう無かった。


 レーザー用の電力がもう無いのはファイアストームも同じようで、レーザーブレイドを取り出してはいるが、レーザーが展開されていなかった。


 グリムムーンにより、一瞬にしてファイアストームの両手両足は撃ち切られた。スカウターも、逃げる間もなく両手両足を撃たれ、動けなくされる。一体、何が起こっていると言うのだ。グリムムーンということは、蔡の仕業か。


 成すすべなく、グリムムーンによりコックピットを無理やりこじ開けられる。そして直ぐに、グリムムーンの後ろで待機していた装甲車から複数人が降りてきて、あっという間に、私とフィラースは拘束された。


「蓮、フィラース、確保!」

「よし、では、帰還するぞ」


 目隠しをされ、猿ぐつわを噛ませられ、そのままどこかに横たえられた。車のドアが閉まる音がしたことから、あの装甲車に乗せられたのだろう。


「蓮ちゃん、ごめんね。こんな手荒い真似しかできなくて」


 その声はアリソンか。無事脱出できたことは良かったと思うが、この事態について説明してほしいのだが。


「詳しい話については、国境を越えてから、後でゆっくり話しましょう」


 その後、私は耳栓もされて、完全に何も感じられない状態でどこかに運ばれた。一つ、言えるのは、どうやら私は完全に周に嵌められたと言うことだ。


 この連れ攫いの犯人は周ではなく、蔡かもしれないが、きっと、この後会えるだろう。そしたら絶対に、この件について、ディヤーについて、そして何者かについて聞いてやる。


 

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