第30話 Step into yourself - D

「こちらスカウター、作戦開始地点に到着しました」

「ファイアストーム、到着」

「……こちらアイスブリザード、敵エーテルノイドと遭遇、既に戦闘開始しています。至急、援護を要請します」


 柳の作戦開始地点に、既にエレクティオプテラは居る。想定の内だ。そして、柳はエレクティオプテラとの戦闘を開始するが、遠距離狙撃を得意とする機体であったが故に、機動力で劣り、大破に至る。


 だからと言って、アイスブリザードの大破を許容する私ではない。既に、その件については対応済みだ。


「こちらデイブレイカー、作戦通りアイスブリザードと合流。戦闘を開始します」

「了解。デイブレイカーとアイスブリザードは敵エーテルノイドとの戦闘をそのまま継続して下さい。ファイアストームはスカウターがエーテルノイドを発見し次第、スカウターと共に戦闘を開始してください」

「「了解」」


 事前に、周の方からディヤーに単独でエレクティオプテラと遭遇する可能性について言及してもらい、デイブレイカーの作戦開始地点を変更してもらっていた。煌がいれば、柳は大丈夫だろう。


 私は私で、また別のエレクティオプテラを探しに行く。この工場内に居るエレクティオプテラはアニメ通りなら全部で4体。柳の元に既に2体居るはずなので、残り2体を探せばいいということだ。


 対エレクティオプテラについてだが、エレクティオプテラはゾノビーラのようにレーザー武器で倒すと爆発すると言うことは無い。その為、レーザーブレードで斬るか、レーザー砲で撃ち抜けばいいはずだ。


 この工場は元々、全長200mもある超巨大な潜水艦のような物を作るための施設なので、十二分に戦う場所はある。ただ、経年劣化で材質不明の白い壁や天井は所々痛んで崩れかかっている為、崩壊には気を付けた方がよさそうだ。


 きっと、レーザー砲で壁や天井に大量に穴が開けば崩れることは必至だろう。仮にレーザー砲を撃つなら、なるべく確実に当てていきたいところだ。まあ、狙撃については腕に自信があるから問題ないか。


 アニメでフィラースがエレクティオプテラと遭遇した地点に到達する。案の定、エレクティオプテラが頭上を通過していった。


「こちらスカウター、敵エーテルノイド発見。司令部、戦闘許可を」

「こちら司令部、スカウターはファイアストームと合流次第、戦闘を許可する」

「了解」


 エレクティオプテラの位置をマーキングし、ファイアストームに情報を送信しておく。その時、エレクティオプテラが飛んできた方から何かが墜落したような爆発音が聞こえて来た。衝撃波で周りの瓦礫が少し飛ぶ。


 煙のせいで、光を当てても、暗視カメラを用いても、何も見えない。ただ、不気味なエンジンのような音が響いている。この音は、聞き覚えがある。


 いや、しかし、あれはアニメ第4話に出てくるはずだ。しかも、ここから何百キロも離れた地下洞窟に。


 煙の中から赤い光が見えてきた。それはどんどん大きくなる。直ぐにその場から離れる。


「こちらスカウター、新たに敵エーテルノイドを発見。ヴェノムクローラーと思われます」


 煙の中から、金属質な黒い殻で覆われ、短い無数の触手で蠢く体長10mほどの芋虫が現れた。その名をヴェノムクローラーと言う。ヴェノムというだけあって、その触手は中空の二酸化ケイ素の棘で覆われていて、触れればバトラコトキシン系の神経毒を注入される。


 スカウターに乗っている現在、この点はあまり問題ないが、GHMにとって一番厄介な点がある。この芋虫エーテルノイドは巻き付いてきて、GHMの動きを制限するのだ。もし今、ヴェノムクローラーに取り付かれたら確実にエレクティオプテラのレーザーで撃ち抜かれて死ぬ。こんなところで死ぬのは御免なので、距離を保ちつつ戦いたいところだ。


 よく見ると、ヴェノムクローラーの色が赤色だ。人造エーテルノイドなのか。アニメに無い事態だから、もしかしたらアリソンの仕業かもしれない。或いは、ディヤーか。


 今はそんなことを考えている場合じゃないな。目の前には無数のヴェノムクローラーとエレクティオプテラがいる。まずは、生き延びる術を考えないと。


「スカウター、すぐさまその場を離れてください」

「了解」


 司令部の指示通り退避行動を開始した矢先、ヴェノムクローラーに向かってエレクティオプテラがレーザー砲を放った。レーザーはヴェノムクローラーに直撃して、煙が舞い上がる。その隙に何とか逃げ切ることができた。そして、天井を撃って崩壊させて道を塞いで、すぐさまその場を離れる。


 少し進んで、ファイアストームと合流できた。フィラースの方は無傷なようだ。


「おい、蓮、大丈夫か?」

「何とか。まさか、ヴェノムクローラーが来るとは」

「ここにはエレクティオプテラが住み着いているんじゃねぇのか?」

「そうなんだけど」


 すぐに、さっき来た方向から地響きが聞こえて来た。どうやら、あの虫達は天井を崩してもそこを掘って来るようだ。


「ヴェノムクローラーの巣かなんかだったとかいうんじゃねぇよな」

「そうかもね。さっき、何十体もいたから」

「嘘だろ!?」


 地響きの方にカメラを向けると、通路一杯のヴェノムクローラーがこちらに接近していた。エレクティオプテラの姿は見えない。


「こちらスカウター、ヴェノムクローラーと遭遇、数は100、一旦、退避します」

「ファイアストーム、スカウター、そのままヴェノムクローラーから逃げてください」

「「了解」」


 地下研究所では飛行形態に変形できないので、人型のまま走って逃げる。近づかれそうになったらレーザー砲を撃って蹴散らすが、数が数体減ったところで、進軍は止まらない。ファイアストームも取り付いてこようとするヴェノムクローラーを斬ってはいるが、二人で精々10体程度しか倒せなかった。


 これを全て倒すには、工場全部を爆破でもしない限り無理だ。もしかして、アニメで工場が爆発したのは、エレクティオプテラのレーザーが工場内の倉庫にある火薬に引火したとかそういうのではなく、これらを葬り去るために事前にディヤーが仕掛けていたのか。そして、この工場にはディヤーが何か隠したいことでもあるとかということも。


 その時、機体に衝撃が加わり、後ろに引っ張られて視界が回転した。

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