第29話 Step into yourself - C
「別にアリソンさんが居なくても、私一人で十分なんだけどな」
「潜水艦の設計図、どうやって入手するつもりだったの?まさか、本体ごと持っていくとか?」
「ファンブック挿絵にあったパスワードで解除して、このDNAストレージに保存して持ち帰って、解析してもらえばと」
「それを作戦行動中にするわけ?」
「それは……」
「命令違反ばっかりじゃ駄目よ」
それを言われたら耳が痛くなる。既に、二回ほど命令違反をしている身である故、これ以上命令違反を重ねたら、謹慎では済まない可能性があるからだ。それに、今度は言い訳も無い。
ここでGHMパイロットでなくなったら、きっとしばらくは勇一が面倒を見てくれるだろうが、彼が死んだあとは身寄りのないただの子供になってしまう。そうなると、もう身売りして生計を立てるしか無い。しかも、エーテルノイド相手の大規模戦闘後だから。これ以上考えるのはやめておこう。
「でも、別行動でも良くないですか?わざわざ、狭いコックピットに乗って、一緒に行かなくても」
「この工場は、軍によって封鎖されていたでしょ。だから、他の方法だと潜入時に手間暇かかるし、リスクも高いのよ。それに、貴方たちの戦闘でこの工場は崩壊するんでしょ。なら、私がここに来た証拠は残らないわ」
いくらテクストライクスに蔡の手の者が何人もいるとはいえ、スカウターにアリソンが乗り込むとき、色々と大変だったものだ。
まず、整備班の人たちの目を誤魔化して登場する必要があった。そこで、アリソンは整備班の人に変装して、整備している流れで乗り込んだ。ここまでは良かったのだが、私の場合、スカウターに薬を積み込む都合上、倉庫にアリソンが潜んでいることがばれたのである。
すぐさま誤魔化すために、荷物を積み込む担当の整備士にアリソンが得意の声真似で蓮であると言い訳をしたのだが、丁度、アリソンが作業着から着替えている途中だった為、私が色仕掛けをしていると話題になったのだ。
言い訳をしたら、アリソンの存在がばれるので、黙っているしかなかった。しかし、第3部隊のメンバーに勘違いされるのは嫌なので、作業員の人がコックピット内を見てみたいと言っていて、見せたと説明している。
第3部隊の面々は人が良いから、信じてくれたが、フィラースは小馬鹿にするような笑顔でこっちを見ていたな。多分、後でいじられる。嫌だな。
「本当に凄腕スパイなんですか?」
「まあ、ここは見てなさいって」
「途中から別行動なので、何も見れないですよ」
「あら、そうだったわね」
工場内の金属製の白い正方形の廊下を進み、少し開けた円筒状の釣り床の部屋に出る。そこで、アリソンを降ろす。
「じゃあ、ここから先は別行動ということで。エレクティオプテラ、ちゃちゃっと倒してきなさい」
「ええ、はい。落っこちないでくださいね。下は潜水艦の廃棄処理場なので」
「そんなの分かってるわよ。本当、私に対して信用無いわね」
「だって、スパイじゃないですか」
「それもそうね。それじゃあ、健闘を祈ってるわ」
颯爽とランデブーポイントとは別方向に進むアリソンの背を見送る。この後、データを回収次第、アリソンは勝手に帰るらしいが、爆発する工場からどう脱出するつもりなのだろう。
そこは、凄腕スパイを信じろと言うことだろうか。
まさか、アリソンは隣国のスパイだったとは。そういえば、京果は前からアリソンはスパイだとか言っていたような。もし、京果に会えるなら伝えてあげたいものだ。とはいえ、もう私は死んでこっちの世界に居るし、元の世界に戻ったところで、京果は6号機に乗ってもういないけど。
それはさておき、潜水艦の設計図はアリソンに任せておいて、私はエレクティオプテラに集中しなくては。直ぐに、ランデブーポイントに向かう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます