第28話 Step into yourself - B
周から仕様書を貰い捲っていると、突然周は座り直して、こちらを真っすぐにに見つめた。真剣な表情をしていたので、資料を机の上に置いて姿勢を正して向き直る。
「ねえ、蓮、君はディヤーを信じているか?」
「司令のことですか?」
突然、司令について信頼しているかと聞いてくるとは。正直、アニメで好印象だったし、作中でも数少ないまともな大人とか言われて人気高かったし、取りあえずは信頼している。しかし、こんな質問をしてくると言うことは、何か裏があるのだろうか。
「そうですね、いい人だと思いますよ」
「……そっか」
周は盛大にため息をついた。あからさまにも程があるというレベルだ。グリムムーンのパイロットである私にそこまでディヤーを信じてほしくないのか。
しかし、ディヤーに裏があったとしても、どうして周は気づけたんだろう。ディヤーは、アニメではいつもテクストライクスのメンバーを心配して、皆の為に全力を尽くしていて、最後まで仲間の為に戦った人だ。実際会っても、特に悪い印象はない。
それに、近年増加するエーテルノイド被害に対応するべくテクストライクスを結成しつつ、腐敗し、民に暴虐の限りを尽くすアクシス・ソブリン政府を討伐する為に、リーダーとしても活躍していた。周はディヤーの右腕として、信頼関係を築いていたはずだが。
「ディヤーは悪い奴だ。と言っても、直ぐには信じないよね」
「そうですね」
ディヤーが悪い奴、そんな発言はアニメ中、周は言ったことは無い。本当に、彼は周なのか。或いは、周の後ろに誰かいるのか。色々、可能性はあるが、結論を急ぐ前に、もう少し話を聞くことにする。
「それで、司令が悪い人であると断言する理由は何ですか?」
「まず、君たち子供をパイロットにしていることだ」
「14歳以上の男女がパイロットになることは、ここアクシス・ソブリンではどこもそうですよ」
「他の国では、いくら人手不足であっても、そんなことはしないんだよ。嘘だと思うなら、今すぐオーシャニアでもノヴァティックでも何でもいいからGHMパイロット名簿を見るといい」
「アクシス・ソブリンはエーテルノイドの最初の発生源の地域が近いことから、エーテルノイドの襲撃が絶えません。そのことからも、GHMパイロットが常に人員不足であり、自然と子供が出撃することもあるかと」
「それは建前だ。ディヤー達アクシス・ソブリン政府は、他国と戦争をする時に忠実なGHMパイロットが欲しいだけなんだよ。大人より、子供の方が言うことを聞くし、学習能力も高くて都合がいいだろ?」
「確かに、そのような捉え方もできますね」
国際法的には子供は戦闘機のパイロットにしてはいけないのだが、GHMは対エーテルノイド兵器であることから、子供の搭乗が暗黙の了解で認められている。GHMをエーテルノイド兵器として、民間企業が管理している国も多いし、公的情報だけでは子供のパイロットの数はわからないのだが。
兎に角、周は私をディヤーから遠ざけたい理由があるのだろう。しかし、14歳の子供には話せないような理由といったところか。
「今、周さんが話したことを、私が司令や勇一に報告するリスクを冒しても、どうして私に司令のことを伝えたのですか?」
「君がグリムムーンのパイロットだからだ。ディヤーがグリムムーンを手に入れたら、Celestial Nexusのストーリーは破綻する」
まさか、こちらの世界でその言葉を聞くとは。少し面食らったが、この話を切り出すということは、周も転生者なのだろうか。
「Celestial Nexusを知っているのですか?」
「ああ。蔡提督に教えてもらった」
「蔡?まさか、第一部隊の」
「そうだ。あの人は」
「エーテルノイド・ドメイン軍空軍大将なんですね」
「よくわかったね」
「この前の訓練基地襲撃を手引きしたのが蔡だとするならそうかと」
蔡は、元アクシス・ソブリン軍第3小隊長であり、そこからディヤーに引き抜かれ、今ではテクストライクスの第1部隊の部隊長の人だ。作中では、ディヤー亡き後、テクストライクスの司令となるが、結局、テクストライクス全滅を招いた人である。人柄は良いが、人を率いる才能は無ような人だったはずなのだが。
しかし、Celestial Nexusを知っているとなると、それはアニメの蔡ではなく、私と同じ転生者だ。そうなると、その人物は蔡に転生した以上、10話で政府軍とテクストライクスの戦いで死ぬことになる。ならば、私と同様に、死亡フラグ回避を頑張っている結果、ディヤーの企みに気が付いたと言うところか。
「それで、どうしてグリムムーンが司令に渡るとストーリーが破綻するのですか?」
「僕も、提督が言っていたその作品について詳細は知らないんだが、どうやら政府側の人間であるディヤーにより、あの悲劇は全て起こったそうだ。テクストライクスの基地に政府軍が押し寄せてきたのも、コアエーテルノイドで反政府軍の戦力を減らしたのも、全て彼の作戦だ。彼の目的はただ一つ、新政府を自分の兄のものにすることだ」
「司令に兄が居たのですか?」
「ああ。名字が異なるから、多くの人は知らないけどね」
周の話が本当なら、アニメでテクストライクスのメンバーが命をかけてコアエーテルノイドを倒して、政府軍を倒して、革命を成功させたのは、全てディヤーの掌の上だと言うことになる。
脚本が鬱展開書きがちな人だし、そんな展開であっても正直、驚きは少ないが、この世界で生きる身としては大問題だ。ディヤーのせいで、テクストライクスという反政府軍側に居る私は戦争に巻き込まれて死んでしまう。そうなったら、周と蔡と協力して何が何でもディヤーの野望を止める必要がありそうだ。
しかし、どこまで周の話は本当だろうか。グリムムーンのパイロットと聞いてから、接触してくる位だし、14歳の子供を騙す詭弁の可能性がある。そうなると、ここは一つ、同じ転生者である蔡に会ってみるしか無いな。
「貴方の話を信じるかは、蔡さんに会ってから考えます。だから、蔡さんに会わせてください」
「いいとも。だが、あの人に会うためには一つ、条件がある」
「条件ですか?」
「アリソンを連れて、ノックスにある潜水艦の設計図を回収することだ。提督は、君ならその必要性を理解しているはずだと言っていた」
「そうですね」
やはり、蔡もアクアロイドの脅威を理解していたか。
「ですが、何故、アリソンさんも一緒ですか?」
「彼女は一流のスパイだからな。情報を抜き取るなら、いた方がいいだろ」
そして今に至る。
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