第24話 Fragrance like home - C
「……こちらとしては、グリムムーンがエーテルノイド・ドメインで開発された機体ではないという確認を取れた以上、これ以上聞きたいことは無い。今日は以上だ」
「わかりました」
「じゃあ、俺もこれで」
「勇一、君は別でまだ話す内容があるから、残ってくれ」
「えー」
「私はこれで。失礼します」
部屋からそのまま出ようとすると、ディヤーに声をかけられた。
「そうだ、蓮。君、何か今、欲しい物とかはあるか?」
「欲しいものですか?」
「フィラースを救ってくれたお礼がしたくてな」
「でしたら、第3部隊の皆と仲良くなる機会が欲しいです。入隊から1週間、謹慎だったり検査だったりして、交流があまり無くて」
「わかった。考えておく。引き留めて悪かった。後は兵舎に戻っていいぞ」
「わかりました。失礼しました」
何となく第3部隊の面々と仲良くなる機会が欲しいと言ったが、今更になって他のものをねだっておく方が良かったかと思う。
兵舎に帰ると、柳も丁度訓練から戻って来たばかりだったようで、着替えを袋に入れて浴場に向かおうという時だった。
「あら、蓮じゃない。久しぶりね」
「そうだね」
「今回も、無事でよかった。全く、貴女は無茶してばかりなんだから。出会って数日の人間を命がけで助けようとするなんて、貴女ってお人好しよね」
「そうかもしれない。柳はこれから浴場に行くの?」
「そうね。蓮も一緒に行く?」
「そうするよ」
手早くこちらも準備をして、柳と浴場に向かう。兵舎から歩いて3分程度の場所に浴場がある。CELESTIAL NEXUSは、近未来の海外が舞台みたいな作品なのだが、何故かテクストライクスの基地の浴場にはシャワーの他に大きな浴槽がある。
やはり、製作スタッフも日本人だと言うことだろうか。流石に富士山の絵が描いてあると言うことは無く、銭湯を無機質な白い部屋にしたという感じだが。
服を脱ぎ、体を洗い、湯船に入る。やはり、お湯につかるという行動は、元日本人であるから故、とても気持ちのいいものだ。しかも、隣には柳がいる。
アニメが実写化すると、役者さんとキャラクターイメージが違って、かなり違和感を覚えることがよくある。実写版を見た後は、やっぱり原作が好きだと思うことが多々あるが、目の前に居る柳は、本物の柳だった。
アニメの作画にも引けを取らない、いや、アニメの中から現実に出てきたと言うほど、美しい。
まるで大理石の彫刻のように均整のとれた筋肉質で引き締まった体でありながら、プロポーションはとてもよく、その肌は白く滑らかでで、アニメの時よりも何倍も艶やかだ。湯につかり頬をほんのり赤く染めて、柳は不思議そうにこちらを見ている。
「どうしてこっちばかり見るのよ」
「90度で曲がっているところに座っているから自然と。柳は本当に綺麗だね」
「それを言うなら、蓮も美人の部類に入るのじゃないかしら?」
「どうかな。顔が良くても、こんな体だから」
確かに蓮は、顔は良いし、細身でどこか儚げな印象のキャラクター、だったのだ。しかし、私が蓮になってからというもの、右腕は肩から黒々とした機械的な腕になってしまったし、右肩から放射状にエーテルノイドに浸食された跡が残っているし、中々に筋肉質な見た目になっている。
いつか、もし蓮に肉体を返す時が有ったら、その時は全力で謝らないとというレベルだ。
「蓮」
「何?」
「……あの時、ゾノビーラから助けてくれてありがと。もし、貴方が居なかったら、私はきっと無事じゃなかったわ。だけど、別に貴女が無茶することを許したわけじゃないんだから。いい?もう、一人で勝手に動かないで」
「努力するよ」
「約束して!……もう、誰も失いたくないから」
「わかった、わかった。約束するよ」
「絶対よ!」
「うん」
「じゃあ、さっさと風呂あがって、REZシリーズの制御について復習するわよ。貴女、入隊してから、まだ何も勉強してないでしょ」
「そうだね。教えてもらえると助かるかな」
「何も知らないと足手まといになって困るから、特別、教えてあげるわ」
風呂から上がるなり、兵舎に戻って直ぐにしっかりと柳にREZシリーズの制御系統の大まかな仕組みについて叩き込まれた。また、兵舎の間取りや、避難経路、食堂の開店時刻等までも教えてくれのだ。
年の離れた妹がいるからか、予想以上に柳は面倒見が良く、相部屋だとこんなにも頼りになるのかと、改めて感心する今日だった。アニメではただのツンデレキャラだと思っていたのだが、日常生活ではそういう訳でも無いようだ。
この調子で仲良くなれるなら、設計図の回収を柳に頼むのもありかもしれない。
気が付けば時刻は18時。19時からGHMの構造やら戦術やらの授業があるので、その前に夕飯を食べるべく、柳と食堂に向かった。
食堂に行くと、偶然、煌とフィラースの二人と会ったので、そのまま流れで一緒に同じテーブルで夕食を取ることにする。
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