第23話 Fragrance like home - B
何事かと思っていると、勇一が私を見るなりがっしりと肩を掴んできた。
「蓮!無茶しやがって!」
「ごめんなさい」
「勇一、その位にしてやるといい」
「……説教は後だ。司令がお前に用があるそうだ」
勇一はディヤーに言われて後ろに下がった。ディヤーはどこか楽しそうにこちらを眺めていた。
「あの勇一が弟子を説教する日が来るとは。今回も、命令違反して、こちらに迷惑をかけていたのにな」
「よし、蓮!司令の話を聞きに行こうぜ!」
「……」
ディヤー司令に対してもお構いなしといった勇一に対し、心の中でため息をつきつつ、ディヤーに向き直る。
「蓮、どうもこんにちは。この前の作戦では、済まなかった。あの戦艦の位置が突然消えたので、位置の補足が遅れ、指示が間に合わなかった。こちらの不手際だ」
「いえ、恐らく戦艦のエーテルノイド浸蝕率が高まって、ゾノビーラのようにレーダーで捕捉されなくなったなら、カメラも無い状況では仕方ないかと」
「本当に済まなかった。次回からは、なるべく君たちが危険に晒されることの無いように、こちらも最善を尽くすことを誓う。それと、君には謝罪と共に、感謝したいと思っていたんだ。フィラースを救ってくれてありがとう」
ディヤーはそう言って、深々と頭を下げた。
「フィラースは私にとって、息子のようなものでね。あの時は、もう助からないと覚悟していた。だが、君のお陰で助かった。心より感謝する」
「いえいえ、あの、司令、頭を上げてください」
ディヤーはフィラースを引き取った後、彼がパイロットになることに猛反対するエピソードがフィラースの回想である。本当にディヤーはフィラースを大事に思っているのだ。
だから、ディヤーの最期は、フィラースを含め煌達を逃がすために、政府軍、エーテルノイド全てを巻き込んで、基地ごと自爆する。この第8話では、ディヤーだけではなく、ムハンナド、周、アリ、そして、ラーディンが死ぬ。そんな未来は、何としても回避しなくては。
「司令、蓮に謝罪と感謝を伝えることだけが目的じゃないだろ」
「そうだったな」
勇一に言われて、司令は頭を上げた。
「今回は、蓮、君に聞きたいことがあってね」
「俺は司令の付き添いだ。司令一人でお前に会いに行ったら、お前も気まずいだろ?」
「確かに、そうだね。あのディヤー司令、話とは何でしょうか」
「一先ず、ゆっくり話せる場所に移動しよう」
ディヤーに連れられ、向かった先は司令室だった。司令の机の前に、長方形の机とソファがある簡素な部屋。まるで、学校の校長室のようなその部屋で、司令と勇一と向かい合うように座ることになった。
「この部屋は防音室となっていてね。部屋の中での話は外に聞こえないようになっている。それに、盗聴器や監視カメラが無いことは既に確認済みだ。安心してくれ」
「あの、話というのは何でしょうか」
「単刀直入に聞こう。グリムムーンは、どこの機体だ?」
ここまでして、内密の話とは何かと思えば、案の定、グリムムーンの話だった。勇一、誰にも言わない約束では無かったか。
勇一の方に目を遣ると、視線をそらされた。まあ、グリムムーンは軍部が所持していたどころか、盗まれているし、国防の面からいつか勇一は誰かに話すとは思っていたが。
恐らく、秘密を守ろうと努力はしたが、何か知っていることが挙動不審な態度からディヤーにばれたのだろう。
「グリムムーンは、エーテルノイドの森で見つけました」
「それは本当か?」
「嘘ではありません。だから、グリムムーンの構造がどこの国の機体とも異なるはずです」
「確かに、グリムムーンの構造が機械的ではなく、生物的だった。つまり、グリムムーンはGHMの形をしたエーテルノイドということか?」
「恐らく、そうではないかと」
グリムムーンは、実は異世界の機体なんて言ったとしても、どうせ信じてくれないだろうし、こう言った方がいいだろう。それで、グリムムーンの構造が生物的って、初耳の情報なのだが、一体、どういうことだ。
「ならば、何故、君はグリムムーンを動かせたんだ?」
「それは……」
異世界でグリムムーン、こと7号機は私の機体でした、なんて言っても嘘だと勘違いされるだろうからな。勇一に助太刀を求めるべく目を向けると、無言で力強く頷いてくれた。きっと、勇一には何か案があるのだろう。
「蓮の母親は、俺の師匠だ。だから、蓮は昔からGHMを操れる。きっと、誰か助けたくて、何も考えずにグリムムーンに乗ったら、操縦できただけじゃないか?」
「蓮の母親とは、前に勇一が言っていた育ての親の事か?」
「そうだ」
20歳蓮が私の母親ということにして、辻褄を合わせようとしたのだろう。しかし、あの蓮から勇一は操縦なんて教わってないはずなのだが、その事情をディヤーは知らなかったようで、納得してくれた。
「蓮、偶然搭乗できたと言うことなんだな」
「はい、そうです」
「そうか。アクシス・ソブリン軍の全パイロットが誰も起動できなかったグリムムーンを、偶然起動し操縦できたのか」
「はい、そうです」
一先ず納得してくれたと思っていたのだが。しかし、それ以上の説明は出来ないし、ここはこれが事実であると理解してほしい。その思いが伝わったのか、ディヤーはそれ以上聞くことは無かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます