第25話 Fragrance like home - D
食堂はビュッフェ形式で、パンとデザート類以外は食べ放題となっていた。壁に栄養バランスの取れた分配が張られていたので、取り敢えずそれを食べることにする。
メニューとしては、パン、豆の何か、肉類の何か、スープの4つだ。この何かというのは、日本では見たことの無い料理なので、ただ黄色いのと茶色いのという認識しか持てなかっただけだ。味はまあまあ、好きというわけでも嫌いというわけでもない感じだった。
4人で向かい合って黙々と食べていると、煌がふと手を止めた。
「こうして第3部隊の面々で顔を合わせるのって、入隊初日以来だよね。何だか、特に蓮やフィラースとは久しぶりな気がするな」
「中々、話す機会が無かったからね」
「そうだな」
「フィラースと蓮が命令違反行動を繰り返すからよ」
「その折は済まなかった。俺も、色々考えなおしたが、あの時の態度は悪かったな」
フィラースは、柳に頭を下げた。意外だ。
こんなにも早く改心するとは。何があったのだろうかと思っていたが、フィラースの後ろの方にディヤーが見えて、目が合ったと思ったら、サムズアップをしていた。
どうやら、あの後、ディヤーが色々フィラースと話したようだ。もしかしたら、こうして4人で話せるのも、ディヤーの手引きかもしれない。
やっぱり、出会ってばかりの他人が説得するより、親が彼を諭してあげることの方が効果的だと実感した。アニメ版のフィラースが改心することが遅れたのは、ディヤーと面と向かって話すタイミングが無かったからなのかもしれない。
「別にいいわよ。次から、勝手にしないで頂戴」
「いや、それは従えねぇな。俺は最善と思った行動をとることにしてるからな」
「命令は私たちを守る物でもあるのよ」
「柳、フィラースの言う通り命令が常に正しいとは限らないよ。実際、最初の作戦の時、ゾノビーラを撃破しなかったら、部隊は全滅した可能性があったし、戦艦墜落の時、命令に従っていたらフィラースを助けられなかっただろうから」
「それは結果的に、よかっただけよ。無理はしない、安全第一。まだ、二人とも子供なんだし」
「そうだね」
「それはお前もじゃねぇか。それに、戦場では子供も大人も関係ねぇだろ」
「私の方が貴方より大人よ。貴方は命令無視して、蓮に助けられてばかりじゃない」
「別に、あいつが居なくたって、俺一人で何とかなるし」
「まあまあ、これからみんなで協力して頑張ろうと言うことで、いいんじゃないかな」
フィラースと柳が喧嘩しそうになったら、煌が止めに入ると言った様子で、しばらく訓練の事や、操縦技術について話す事ができた。
みんなと話す機会ができて、良かったが、まだ、現段階では設計図回収を無条件で頼める位の仲では無いな。ディヤーに潜水艦情報を頼んでおけばよかったと、少し後悔している。
「今日、ようやく、第3部隊に所属したっていう気がしたな」
夜、寝室でベッドに横になりつつ、まだ起きている柳に話しかける。
「そうね。入隊してから、いろいろありすぎたのよ」
「本当、そうだよね。入隊初日からエーテルノイド殲滅戦で、一週間もしないで、次の作戦があって。こんなに忙しいなんて、他の部隊でも聞いたことが無いな」
「蓮は第2部隊とか第1部隊に知り合いがいるの?」
「私の師匠は第1部隊の勇一だから」
「やっぱり、そうだったのね。だって、あまりにも戦い方が似ていたから」
「柳は勇一と知り合い?」
「いえ、向こうは知らないと思うわ。昔、私はあの人に助けてもらったの。その時、戦いを見てたのだけど、1人で突っ込んでいって、作戦なんて無視したような無茶苦茶な戦い方だったわ。正直、あんなパイロットにはなりたくないなと思った」
「そんなに酷かったんだ」
「そうね。機体の速度を最大限にして、斬りまくるって感じだった。でも、勇一さんがいたから、私もパイロット目指そうって思ったのよ」
「そうだったんだ」
アニメでは柳がパイロットになった理由は、厳しい両親に反発してとなっていた。確かに、思い返せば、あの設定集の注意欄に、彼女の口から理由は語られなかったので、煌による考察と書いてあった気がする。
やっぱり、アニメと現実では、情報量が違うな。どんなに設定資料集を暗記していても、私は勇一がどんな仕事をしていたかも、柳がパイロットになりたかった理由も何も知らなかったのだと実感したのだった。
それからというもの、なるべく第3部隊の全員が集まれるなら集まって話す機会を設けるようにした。また、インターネットや資料室でアクアロイドの情報を調べた。
しかし、この3週間、アクアロイド戦に備えてか、訓練がより過酷になり、体力トレーニングの量が増え、個別の実機訓練が増えた。その影響で、食事時間が各々ずれて、話す機会があまり得られず、夜も私も柳も部屋に帰るなりすぐに寝る生活。
アクアロイドが取り込んだと言う潜水艦情報は結局、得ることは出来なかった。
そして、何もできないまま、第3話の前日になった。
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