第21話 Calling Out To You - F

 スカウターに乗り込んで薬を打って、一先ず何とかなった。今は、操縦席にはフィラースが居るので、操縦席の後にある収納スペースで体育座りで待機している。


「おい、そこの馬鹿。もし、俺が怪我でも負っていたらどうするつもりだったんだよ?」

「まさか、船の中があんなことになっているって思わなかったから。その時は担いで帰ろうかと」

「お前のどこにそんな筋力があんだよ」

「こう見えて、それなりに鍛えてるよ」

「お前まで倒れてたら意味ねぇじゃん」

「それもそうだね」

「そういえば、倒れたとき、お前変なことを言っていたけど、どうかしたのか?気でも狂ったか?」


 そういえば、さっき動けなくなった時、何かおかしくなっていた気がする。その時に何か口走っていたのだろう。しかし、思い出そうとしても、そこの記憶は真っ赤に染まっていて、何も思い出せなかった。何か、大事な事を忘れていないか。


「……何も覚えてないかな。その時、私はなんて言ってた?」

「そもそも、ソブリン語じゃなねぇからわからん。聴いたことのない言語だったし」

「そっか」

「殴って正気に戻ったと思えば、持病の発作がどうとか言ってるし。それ、抗エーテルノイド剤だろ」

「何でわかったの」

「前に見たことがあるからだ」


 その時、大きな爆発音とともに、機体が揺れた。丁度今、船が墜落したみたいだ。


 グリムムーンがどうなったか見るべく、バックモニターを確認すると、グリムムーンは飛行形態に変形して飛び去っていた。直ぐにストームブレイカーが飛行形態になって追いかけるが、追いつきそうにない。


 一先ず、危機は去ったと言うことか。


「墜落したな」

「グリムムーンは立ち去ったみたい」

「そうか。じゃ、戻んぞ」

「あ、待って。アストロフィア号の位置、マーキングしておく」


 後ろから手を伸ばして、地図設定から、アストロフィア号の位置をマーキングしておく。


「これでよし」

「義手......、寄生型にやられたのか」

「何のこと」

「その右腕」

「ああ、これのこと。うん、前にちょっとね」

「寄生型はアクシス・ソブリンでは製造中止になっているはずだが」

「さあ、何で巻き込まれたのかさっぱり」


 あの時、ラーディンはアクシス・ソブリンでは違法の寄生型エーテルノイドの密輸をしていたのか。届け先はどこだったかわからないが。となると、シンギュラリティ・ブラッドの連中はエーテルノイド・ドメインと関係がある可能性があるのか。


 でも、今日の様子からするに、彼らからグリムムーンのパイロットであるとばれた様子はないから、今のところは問題ないか。


「そういえばさっき、抗エーテルノイド剤見て、前に見たことあるって言ってたよね」

「ああ」

「その人はどうしてる」

「......ほとんど死んだよ。半分以上は、寄生されたその日に浸蝕率が40%を超えて、多臓器不全で。今のところ、生き残っているのは5人だけだ」

「何人中」

「1000人中。だから、お前は運が良かったな。腕一本で済んで。生き残った5人の内、二人は完全に浸食されて辛うじて植物状態、一人は脳を侵食されて寝たきり、一人は首だけ無事だが、浸蝕率の上昇が止まらずにいつ寝たきりになるか」

「後の一人は」

「浸蝕率が0%より上がることが無い、完全なエーテルノイド耐性を持つクローンさ」


 きっと、これはフエのクローンに行われた実験の結果だろう。ファンの間では、公式設定資料集で、”人造エーテルノイドの作成及び使用は現在、アクシス・ソブリンでは禁止されている。”という文章から、GHMに寄生型の人造エーテルノイドを使用しているのではないかと考察されていた。


 もし、フエの乗っていた機体、エーテルストライクが寄生型の人造エーテルノイドを使用した機体なら、搭乗時にエーテルノイドに寄生され、浸食されることになる。エーテルストライクに搭乗するパイロットにはエーテルノイド耐性が必須だから、クローンたちは耐性の有無を調べるためにあんな実験を受けたのかもしれない。


 フィラースの話が本当なら、私はエーテルノイド耐性がある方なのだろう。浸蝕率は基本10%以内だから、生きていることができる訳で。


 フィラースが、クローンの話をしたと言うことは、もう少し深く聞いてみてもいいかもしれない。


「そのクローンって、フィラースのこと?」

「......ああ、そうだよ。俺はフエっていうパイロットのクローンさ。人を殺すために生まれて来た」

「......」

「実験が中止され、クローンは廃棄される予定だったんだが、彼奴の善意で俺の他に5人が生き残った。俺たちは生きていちゃいけねぇのによ」

「フィラースは別に、誰も殺してないから、生きてはいけないことは無いと思うけどな」

「......何で、そう言い切れるんだ」

「少なくとも、さっきの戦艦の人は誰も目立った外傷は無かった。多くは、エーテルノイドによるものだったし。それに、あの時、第3部隊全員での戦いが初戦闘でしょ?動きで分かるよ」


 フィラースの初戦闘については、動きから推察したとかではなく、アニメで語られていた情報だ。フィラースはVR訓練を積んでいても、実戦経験はあの時点では0だ。


 フィラースが死にたがっている理由は、人殺しになる可能性がある自分が生きていていいのかということ、他のクローンたちが死ぬ中、自分はのうのうと生きていていいのかということ、彼らを見捨てたような罪悪感。彼は、罪を犯したわけじゃない。


「......ああ、そうだよ」

「フィラースこそ、素人だったね」

「......うっせぇ。そういうお前はどうなんだよ」

「初戦闘じゃないよ」

「その年齢でか?」

「まあ、色々とあってね」

「何なんだよ」

「......自分一人が生き残ったからと言って、誰かの犠牲の上で成り立って至って、生きてはいけない理由にはならないと思うよ」

「......お前に、何が分かんだよ」

「私は人を殺すことで生きて来た」

「......」

「そんな私でも、今を生かされている。もう一度、生きるを許された。だったら、フィラースが死ぬべき理由は無いんじゃないかな」

「......訳わかんねぇよ」


 この後、私たちは無言のままアストロフィア号に帰還した。

 





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