第19話 Calling Out To You - D
その時、南の方で、花火を複数打ち上げた大きな爆発音と共に辺りが昼間のように明るい光で包まれた。
あれは、訓練所のある辺りだ。煙が落ち着いてきて見えたのは、エーテルノイド・ドメインの飛行戦艦が訓練所の中から飛び去ろうとしている様子だった。さっきの爆発は上空で待機していた飛行戦艦の空爆だろう。
彼らが撤退すると言うことは、目的を達成したと言うことだろうか。まさか、勇一に何かあったのか。レーダーを気にしつつ、メインカメラの照準を飛行戦艦に合わせる。
すると、直ぐに地上から黒い機体が飛行戦艦に飛びついた。あれは勇一だろう。やっぱり、勇一は無事だったか。しかし、今度は戦艦から赤く光る機体が現れた。どこかで見覚えのある機体だ。
黒ベースで、血管のような模様が赤く光っていて、足の装甲が厚くて太くて、前の方に尖っているような形のボディで、背中に大きな砲台が二つあって。
あれは、7号機じゃないか。今はグリムムーンだったな。
それにしても、どうして、エーテルノイド・ドメインの飛行戦艦からグリムムーンが出てくるんだ。それに、あれを動かせる人間が私以外に居るのか。
グリムムーンは遠距離支援型にも関わらず、腕に収納されているレーザーブレードを取り出して、ストームブレイカーと一騎打ちになる。そのすきに、飛行戦艦が離れていく。
このまま戦いを見ていたいが、そろそろ煌たちがニキシードローン達と会敵する頃だ。直ぐに援護に回れるよう準備しなくては。
今回、スカウターは、敵を探知しつつ、敵の位置情報の共有だ。人造エーテルノイドは装甲が硬く、レーザー武器じゃないと攻撃が通りにくい。故に、ステルス性能の為にレーザー武器を装備していないスカウターでは、太刀打ちできないので、戦闘には基本参加しないことになっている。その代わり、味方機体がやられた場合は、それを持って帰る任務があるのだ。
いくら3Dプリンターと化学プラントで機体をいくつも作れるとはいえ、製造コストは依然として高いからである。特に、核融合炉や、内部の三次元基板辺りが製造コストを引き上げている原因らしい。
「こちらデイブレイカー、ニキシードローンを発見。距離、500m」
「こちら司令部、攻撃を許可する」
「こちらデイブレイカー、了解。直ちに攻撃を開始します」
「こちらアイスブリザード、デイブレイカーの援護を開始します」
二人がニキシードローンと遭遇し、戦闘が開始されたようだ。今回、森の中である為、遠距離レーザーは届きにくい。その為、柳は中距離レーザー狙撃銃での戦闘となっている。柳は射撃においては天才だ。煌も、伊達にアニメの主人公なだけあるし、きっと、ニキシードローン相手でも、二人は大丈夫だろう。
二人から遅れて、ニキシードローンに接近する。すると、デイブレイカーが主にブレードでニキシードローンを切り伏せ、デイブレイカーに取り付こうとするニキシードローンをアイスブリザードが撃ち落とすという流れで、既に2体は撃破されていた。
人造エーテルノイドがあまり強くないお陰で、私の出番は無さそうだ。
最後の1体も難なく撃破し、戦闘は終了した。包囲を目的としているから、後は敵機の様子を伺いつつ待機することになるのだが、飛行戦艦が飛び立とうとしている今、作戦はどうなるのだろう。
「二人とも!飛行戦艦がこっちに落ちてくるわ!早く逃げなさい!」
柳が必至の形相で、呼びかけられて、我に返る。メインモニターに目を向けると、飛行戦艦がこちらに向かって火を上げながらゆっくりと落ちてきているではないか。
その時、戦艦の窓で動くのが見えた。カメラをズームすると、取っ組み合いをしているフィラースの姿がある。もし、このまま飛行戦艦が墜落して爆発したら、フィラースの命は無い。
後ろからグリムムーンとストームブレイカーが戦闘をしつつ、こちらに向かっているのが見えるが、あの状態だと間に合わないだろう。
飛行戦艦を止めないと。
しかし、どうやってだ。スカウターでは飛行戦艦を持ち上げるだけの出力は無い。デイブレイカーとアイスブリザードで協力して持ち上げたとしても、落下を抑えることは出来ないだろう。
ならば、戦艦に乗り込んででも、フィラースを助け出すしかないな。
飛行戦艦に近づくと言うことは、グリムムーンに近づくと言うことだ。グリムムーンに攻撃されるリスクがある。つまり、死ぬ可能性が高い。
だからと言って、フィラースが死ぬのを眺めていていいと言うことではないだろ。死にたくない、でもそれ以上に、もう、誰かを見殺しにするのは嫌だ。
すぐに飛び上がって、飛行状態に変形して飛行戦艦に近づく。
「ちょっと、蓮!死ぬ気なの!早く逃げなさいよ!」
「……」
一気に速度を上げる。
柳の言う通りだ。こんなの、死にに行くようなものだ。駄目だな、私は矛盾した行動をしている。生き残るためには最善じゃないと分かっているのに。
静止する声を振り払うように、速度を上げた。
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