第17話 Calling Out To You - B
目の前にある黒と金色の高級感漂う細身の機体がREZ02-X01、通称ストームブレイカー。勇一の機体で、非常に高い火力と機動性を持つ。欠点として、装甲が薄く、機動力が高すぎてパイロットを選び、専用武器使用の為、エネルギー管理が難しい点がある、非常にピーキーな機体だ。
事実、現状普及しているREZ02はもう少し機動力を落として、汎用武器を使用するようになっている。ストームブレイカーは幻の試作機と言われていて、あの伝説のパイロット、フエのREZ01-X00、エーテルブレイカーを元に作成されたそうだ。
ちなみに、ストームブレイカーの改良機がデイブレイカーである。つまり、並みの機体では、ストームブレイカーの機動力にはついていけない。
「おい!そんなのチートだろ!もう一度戦え!」
「エーテルノイドが、自分たちより遅いとは限らないぜ。まあ、時間はまだあるし、いくらでもかかってこい!」
この日、10回以上戦い、結果ストームブレイカーに掠り傷を負わせることすらできずに、訓練は終了した。
「まずは蓮、射撃の腕は上げたが、毎度毎度、接近しすぎだ。そんなんじゃ、敵を倒す前に大破するぞ」
「はい」
「次にフィラース、お前は隙が大きすぎる。是非、自分を撃ってくださいって感じで隙が大きすぎる!そんなに訓練が嫌なら、早く俺を倒すんだな!」
「……ちっ」
「というわけで、今日は終了!二人とも、ご苦労!俺は持ち場に戻るぜ。また明日な」
「明日もあるのかよ……」
嵐のように勇一が去った後、共有スペースに二人残された。今日の戦いで分かったのは、勇一を倒すには、単騎で挑んでも駄目だと言うことだ。きっと、フィラースもそれはわかっているだろう。ここは、共闘を申し込んでみるか。
「フィラース、ここは共闘作戦といかない?」
「は?何でお前なんかと」
「現状、勇一とは機体の性能差でも、パイロット技術でも負けている。こうなったら、戦術で勝つしか無いのでは?」
「別に俺はあいつに勝つ気なんてねぇよ。もう寝る」
フィラースはそう言って部屋を出ていった。彼から素人呼ばわりされなくなったのは、今日の良かった点か。
翌日。朝早くから訓練が再び始まる。
「スカウター、右から撃て!」
「……了解」
知らぬ間に、フィラースに認められたのか、彼から指示が入るようになった。
今回は、挟撃する様で、私が陽動をするようだ。スカウターが航空機関砲を撃つなり、直ぐにストームブレイカーはそれを上に飛んで回避する。その瞬間をファイアストームが斬りかかった。しかし、切っ先はストームブレイカーの装甲をかすっただけで、後ろに飛んで回避される。
直ぐにストームブレイカーは弾幕の雨を降らせた。直ぐには旋回できないので、被弾し、装甲の薄いスカウターは大破、ファイアストームでさえ、中破状態だ。しかし、直ぐに上から落ちるように飛んできたストームブレイカーに斬られて大破。
映像が暗転するなり、現実に意識が戻る。VR訓練ルームは、ネットカフェみたいな部屋で、個室がいくつかあり、それぞれに椅子とモニターとVR器具が置いてある。モニターを操作して、他の部屋のパイロットと連絡を取れるのだ。
モニターはフィラースと勇一と繋げっぱなしにしている。椅子に座ったまま、VRヘッドセッドを取ると、モニターに怒りをあらわにして険しい顔のフィラースとゲラゲラと大声で笑う勇一の姿が見えた。
「……くそっ、また負けた!」
「はっはっは!どうだ、見たか!これが俺の強さだ!二人が即席で組んだところで、俺には勝てないぜ!」
アドバイスを忘れて、戦いを楽しみだしたようだ。昨日の今日で、二人で連携して、勇一を楽しませられるレベルになれたと言うことだ。勇一的には掠り傷を負わせられたから、及第点位か。
しかし、フィラースが組もうとしてくるなんて、どんな心境の変化があったのだろう。
この日も又、一勝もできずに訓練が終わった。
勇一が去った後の、共有スペースにて。
「お前、12の時から勇一に訓練されているんだってな」
「うん、そうだけど」
「どうして、パイロットになりたかったんだ?死にやすい仕事だし、給料が良い訳じゃないし。まだ14なのに、何で軍人になりたかったんだ?」
「生きるにはそれしか道が無いから、かな」
確かに、GHMパイロットなんて、10回戦闘に出れば、半分以上が死ぬし、その割には給料が低い。それでもパイロットになった理由は、7号機パイロットであることを隠すために、勇一の提案を受けた部分もある。しかし、主な理由は長生きするには、それが他のルートより最善だから、選んだのだ。
研究室育ちのフィラースが知らない事情として、この世界で親の居ない貧しい女の子が生きる方法は、身を売るか臓器を売るしかない。結局、多くの少女は大体14歳から身を売って、病気になって20歳になる前に死ぬ。臓器を売っても、持続的にお金を得られるわけが無いので、結局は身を売ることになる。売れない少女は、栄養失調で死ぬ。
また、仕事場の多くが大都市では無く、中小都市の中でも、軍の駐屯地の周辺。それ故に、エーテルノイドの森近郊である為、エーテルノイドの襲撃を受け死ぬリスクもある。
つまり、GHMパイロットの方が、ましな生活ができるし、医療が整っているので、私みたいな薬漬けの人間は、その方が長生きできる可能性が高くなる。CELESTIAL NEXUSの蓮は14歳の時、身売りをする前に軍に入れたから良かった方だけなのだ。
「それに、何でお前はパイロット歴2年の癖に、そこまでの技術があるんだ?」
「……そうかな」
「俺が見た限り、煌位が普通なんだぞ。一人でエーテルノイドに戦いを挑まないし、本番で正確に撃つことは出来ない。それに、偵察機でどうして戦えんだよ」
「ほら、勇一に鍛えられたから」
「まさか、お前も……。いや、何でもない。もう、寝る」
フィラースはそう言って、共有スペースから出ていった。少しずつだけど、彼と会話ができるようになってきたかもしれない。
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