第13話 Beat laments the world - C
この作品のパイロットスーツは、よくあるロボットアニメの、ボディーラインがはっきり見えるタイプではない。黒色のパイロットスーツの上に、下肢を覆うようなズボン状の服で、空圧で下半身を圧迫する対Gスーツを着用する。また、ヘルメットも、後頭部から側頭部を圧迫できるエアバッグを内蔵し、酸素マスクも付属してある、所謂、コンバットエッジを着用する。
つまり、完全に戦闘機パイロットの装備である。旧型のEAGシリーズやREZ01シリーズと異なり、私たちが乗るREZ03シリーズは機動力をかなり高めており、かなりのGがかかるから、こんな装備になっている。
待機部屋には、第3部隊全員が席に着いていた。勿論、柳の姿もある。やっぱり、彼女はいつ見ても美しい。生まれ変わる先が柳ではなく、蓮で良かったと心から思う。
折角だから、ここで軽く自己紹介をしておこうか。もしかしたら、少しでも仲良くなれれば、初戦闘で連携を取りやすくなれるかもだし、柳の声を聞けるから。
「どうも、こんにちは。折角、同じ部隊に所属することになったので、自己紹介をしませんか?私は蓮、よろしくお願いします」
「自己紹介は仲を深める為にもいい案かもね。僕は煌、よろしく」
「……私は柳、よろしくお願いします」
「自己紹介の必要はあるのか?遊びに来てるわけじゃないんだぞ」
案の定、フィラースは冷たい態度だ。この一言で、和みかけていた雰囲気も一瞬で凍り付く。柳が自己紹介をしてくれたと言うのに、なんてことをしてくれるんだ。
「そもそも、蓮だったか?俺たちはどうせ、すぐ死ぬんだ。そんなのいらないんだよ」
「でも、自己紹介をした方が連携を取りやすいのでは?」
「連携なんて必要ねぇ。俺一人で十分だ」
「そうですかね」
「何でも、知り合いの金で入ったお前にはわからないだろうな。先に言っておく、俺はお前たちの指図は受けないし、勝手にやる。いいな?」
最初の頃のフィラースの性格は最悪の一言に尽きる。しかし、彼は幼少期の経験のせいで、大事な人を作りたくないし、自分を含め、人を大切にできないから、こんな言動なのだ。それが分からないと、ただ苛立つだろうけど、それを知っていると、逆に可哀そうに見えてくる。
「フィラース、蓮さんにそんな言い方は酷いわよ!謝りなさい」
「柳、お前はいつもいつもうるせぇんだよ。黙って、安全圏で指でも咥えてろ」
「私を罵るのは構わない。だけど、他の人を罵るのはあんまりじゃない?自分だって罵られたら嫌じゃないの?」
「別に。馬鹿が戯言言ってるだけだろ」
柳が私を庇ってくれるのは正直嬉しい。しかし、二人の喧嘩に繋がってしまった。こうなると、二人はずっと喧嘩し続ける。柳には大変、申し訳ないことをしてしまったな。
煌に視線を送ると、あたふたして、どうすればいいか困り果てている。やはり、煌は頼りにならないか。
「まあまあ、私の事は良いので」
「良くないわ!というか、べ、別に貴方の為じゃないんだから!」
「馬鹿な奴ら」
「なんて?」
「馬鹿って言ったんだよ。仲良しごっこでもしてろ」
喧嘩の仲裁に入ってみたが、私の話を二人が聞くどころか、もはや聞こえてないようで、黙ってみるしかなくなった。
そうこうしているうちに、時間を見ると出撃10分前だ。戦闘が長引くことを想定してそろそろ投薬しないと生死に関わるので、泣く泣く部屋から出ていくことにした。
「ちょっと、予定があるので、これで失礼」
一応、声をかけておいたが、誰も気づいている様子は無い。私、そんなに存在感なかったか。
10分後、換装が終わり、各自機体に搭乗する。喧嘩は結局、収束しなかったどころか、煌に飛び火したようで、煌は疲れ切った顔をしているし、柳とフィラースはむすっとした表情だ。自己紹介を提案して、悪いことをした。
秒読みの後、アストロフィア号から発進する。すごいGがかかってくるが、訓練であった対G訓練よりは遥かにましだ。
発進後、飛行形態のあるスカウターだけ直ぐに作戦ポイントに向かう。他の3機体は後から付いてくるのを確認しつつ、作戦地点でエーテルノイドの位置を補足していく。
「こちらスカウター。クリプトンバグをレーダーで検出しました。現在、位置は北東、高度6000m、距離約20km、クリプトンバグの数は30です」
「こちら司令部、了解。ミッションはクリプトンバグの掃討だ。総員、戦闘態勢に入り、接近を続けろ」
「アイスブリザード、了解。これより、迎撃態勢に入る」
「ファイアストーム、了解」
「デイブレイカー、了解。迎撃態勢に入ります」
アイスブリザードは、柳の機体REZ03-A02で、ファイアストームはフィラースの機体REZ03-A01だ。遠目で見ると、青っぽいのがアイスブリザードで、赤っぽいのがファイアストーム、白っぽいのがデイブレイカーだ。私の機体はステルス加工されているので、黒一色だから、羨ましい限りだ。
バックモニターで後ろにいる3機を確認すると、遠すぎて型はわからないが、柳は遠距離狙撃用のレーザーライフルを取り出したのが見える。煌も、何か武装を展開しようとしているが、もたついている様だ。一番問題児なフィラースは、まっすぐ北東に向かっている。一応、聞かないだろうけど忠告しておこうか。
「ファイアストーム、待て。現在、クリプトンバグへの攻撃は許可されていない」
「すぐに終わらせるから黙ってろ、素人」
「フィラース、司令部の作戦は守りなさいよ!こっちも、勝手な真似をされると業務に支障が出るでしょ!」
「お前はそこからのんびり眺めてろ。これくらい、俺一人で十分だ」
フィラースはこの調子で、クリプトンバグ10体を倒すことは出来る。しかし、問題なのはこの後なのだ。この後、クリプトンバグに突っ込んでいったフィラースの元に、新しいエーテルノイドが出現する。
フィラースは無茶な戦闘で機体の損傷が激しく、追撃ができないどころか、彼の機体が邪魔で射線が通りにくくて、柳は狙撃もできず、新しいエーテルノイドの攻撃を喰らって、全滅しかけるのだ。
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