第9話 When you sleep - C

「俺は、物心つく前に両親を亡くしたんだが、蓮が俺を拾ってくれたんだ」


 勇一を育てた蓮は青い髪をしていて、私とそっくりの見た目だそうだ。この蓮は私より年上で、20歳程に見えたらしい。そして、勇一は彼女に育てられたそうだ。しかし、彼女は勇一が14歳になる時に突然居なくなってしまったらしい。


 その後、勇一は19歳の時に、少し若返った蓮らしき人と会ったそうだ。彼女も又蓮と名乗り、その時に勇一に約束をした。その約束というのが、2年後、ニューロシティに黒い機体に搭乗した蓮が現れるので、彼女をパイロットにして欲しいということだそうだ。


 つまり、勇一は私を見て、この若返った蓮と勘違いしたようだ。だから、約束がどうのこうのと言っていたらしい。しかし、よくよく見れば、今まで会った蓮の中でも、私は一番若いので、別人だとのことだ。


 今の話が正しいとすると、20歳頃の蓮、16歳頃の蓮、そして12歳の蓮になった私の3人の蓮がいることになる。私も前に16歳の蓮に会ったし、勇一の話は信じるに値する。


「ごめん、どうやら人違いみたいだ。あ、でも、待てよ。蓮との約束は、黒い機体に乗った蓮をパイロットにしろということだから、つまり、どういうことだ?」

「勇一さん、恐らく、この蓮をパイロットにすればいいのでは?」

「流石ラーディン。それもそうだな。それで、どうだ?蓮はどうする?」


 勇一は例の16歳の蓮の約束を律儀に守って、私を弟子にする気なようだ。物語に大きな影響を与えそうだから、弟子にならない方がいいだろう。しかし、私が見た16歳の蓮が私に7号機を示し、勇一と約束をしたことに何か意図があるはずだ。


 16歳の蓮の目的が一切、読めないし、正体もわからないが、彼女のお陰でニューロシティの被害を抑えることができたし、ラーディンのトラウマイベントを回避することもできた。もしかしたら、彼女の目的は私をパイロットとして育成して、テクストライクスで生じる死亡フラグを全て折ることなのかもしれない。


 それに、アニメ通りで行くとあの酒場で暴力を受けながら働くことになるからそれは嫌だという気持ちもある。ここは、16歳の蓮の筋書きに乗ってみるか。


「私があの機体のパイロットだと誰にも言わないと約束できるなら、いいですよ」

「約束する」

「だったら、勇一さん。約束通り、私をパイロットにしてください」

「ああ、わかった。蓮に誓って、蓮を立派なパイロットにする!」


 こうして、私は勇一の元で巨大人型機械GHM(Giant Humanoid Machines)のパイロットになる訓練を始めることとなった。


 それからというもの、私は手術を終え退院するなり、勇一の養子となって戸籍を手に入れた。そして、ラーディンと共に勇一の家で生活することとなった。


 何故、ラーディンもいるかというと、私の一件を受けて、もうあんなことが起きないように、対エーテルノイド部隊に所属したくなったそうだ。半年後、家族と共に隣国のインドゼニスに引っ越すが、それまでの間だけでも訓練したいそうだ。


 アニメのラーディンは、諜報員から無理やりパイロットになって、そのせいで無茶な戦い方しかできなかったことを振り替えると、これは彼の為にはいい機会かもしれない。


 勇一の家はアクシス・ソブリン共和国の首都メガラムにある。メガラムはニューロシティと違い、100階建てはあるんじゃないかというほどの超高層建築で溢れている町だ。


 移動手段はビルを縫うように整備されている空中ハイウェイか、空中電車で、そこは馴染めそうだ。街の様子は、海辺にあるし、さながらドバイに似ている。


 ニューロシティからの飛行機から降りて、駅から電車に乗り、景色を眺めつつ、ラーディンと二人で勇一の家に向かう。


「勇一さんの家は40階の4015号室ですよね?」

「そうだね」

「僕、メガラム来るのは初めてで、ちょっと緊張します」

「私も。だって、ニューロシティと違って、すごい都会だから。ただ、ビル群の下は貧民街が広がっているんだね」

「そうみたいですね。メガラムは特に貧富の格差が激しいですから」


 ビルの下を覗くと、トタン屋根の寂れた家の群れがひしめいていた。勇一も、元々はあの家々の中で住んでいたのだろうか。


「次の駅で降りますよ」

「うん」


 電車から降り、駅を抜けると、開けた宙に浮いた道に出る。この世界では素粒子の研究が進み、重力操作は日常的に行われているようで、物が浮いているのは当たり前の光景の様だ。


 核融合と超伝導の研究も進み、エネルギー問題は解決済みであるが故に、街の空はホログラムの広告が埋め尽くしていて、道行く人は皆、ロボットかサイボーグ。金持ちはどうやら肉体を物理的に改造して楽しんでいるみたいだ。


 マンションに到着すると、ロビーで勇一が出迎えてくれた。勇一の案内の元、彼の部屋に行くと、予想と違い小奇麗だった。ラーディンはそれを信じられないと言う顔で見ている。私の意識が無い半年、二人は一体、どんな関係だったんだ。


 リビングを眺めると、筋トレグッズがたくさん置いてあるとはいえ、綺麗に片づけてあった。隣接するキッチンも使い込まれていて、自炊ができると思われる。使用人を雇ったり、使用人AIを買ったりしていないと言っていたし、例の20歳の蓮のお陰で勇一は生活力の高い大人に成長したようだ。


「こっちが蓮、こっちがラーディンの部屋だ。自由に使ってくれ」


 勇一に案内された部屋は、ベッドとクローゼット以外、何も置いてない部屋で、使用されていた気配は無かった。恐らく、客間としてあったが使うことは無かったのだろう。


 これから1年と半年、ここで暮らすのか。戸籍上、勇一とは親子だし、ラーディンは12歳とは言え、色々と心配だったが、部屋には内鍵があるから、安心して眠れそうだ。


 前世では、大学生になってから一人暮らしだったし、その後も家族は皆居なくなったから、ずっと一人だった。だから、誰かとこうして生活するのも久々で、これからが楽しみだ。


 しかし、楽しみにしていたのも束の間。翌日から厳しい訓練の毎日が始まった。


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