第8話 When you sleep - B
面会に来たその人は天井に着きそうなほどの長身の筋肉質の大男だった。短く借り上げた髪は綺麗に纏まっていて、日に焼けた傷跡の残るその風体からは威厳が漂っている。
一目見た瞬間、この人は、作中最強のパイロット、
勇一の特徴はただ一つ、戦闘狂であることだ。自ら死地に赴き、そこで生を実感することに喜ぶような男である。
その最期も彼らしく、王都に生じたエーテルノイドの大規模侵攻に単騎で挑み、全滅させた末に、コアエーテルノイドに戦いを挑み、あと一歩のところまで追いつめ、エネルギー切れを起こして機体ごと貫かれて死ぬのだ。
それにしても、何故、軍部のお偉いさんではなく、まだ20歳で、一兵卒でしかない彼がここに来たんだろうか。
「お前が蓮だな」
「……はい、そうですが」
「グリムムーンのパイロットだろ」
「ええ、はい」
「......。戦い方がまだまだ成ってないな。照準がぶれすぎて、弾を消費しすぎだ。それに、バイタルバグに接近しすぎだ。確かに当てることは出来るかもしれないが、こちらもダメージを受けるリスクが高すぎる。射程を意識しろ」
出会って早々、勇一は私に何を言っているんだ。本当に初対面なのか。戦闘分析をされても、困るし、彼から不信感しか感じない。CELESTIAL NEXUSの知識が無かったら看護師を呼んでいたところだ。
もし、軍上層部が私を捕まえるために勇一を派遣したなら、最悪手だ。今すぐ、別の奴に交換した方がいいぞ。
「それはそうですが、貴方は誰ですか?どうして私がパイロットだと知っているんですか?」
「......?」
「どうして、そんな不思議そうな顔をするんですか?」
「ああ、そうだった。この蓮とは初対面か。えーっと、俺は勇一。軍人だ。部隊とか所属も言った方がいいか?」
「言われてもわからないので結構です」
「そうだな。それで、どうして、お前がパイロットだと知ってるか、だよな。それは、お前の友達から聞いたからだ」
「ラーディンですか?」
「そうだ。あ、あと、約束通り、蓮のことは他の人には言ってないぞ」
やはり、ラーディンからグリムムーンのパイロットだと伝わってしまったか。
しかし、勇一は今、約束通り他の人に伝えていないと言っていた。何故だ。上からはパイロットを探せとか指示されているだろうに、命令違反をしてまで、何がしたいのか、全くわからない。約束した覚えはないぞ。
「何が目的ですか?」
「目的?」
「そうです」
「目的も何も、前に約束したじゃないか。お前をいつかパイロットにするって」
「はい?」
「変な事言ったか?」
「そうですね。初対面のはずなのに、意味が分かりません」
「ん?ということは、あれは、お前じゃないのか。蓮だよな?」
「蓮ですが」
「あれ?おっかしいな」
CELESTIAL NEXUSの蓮も、私もこれまでの人生で勇一に会ったことは無い。それなのに、勇一は私と蓮という人物を混同しているようだ。彼の口ぶりからするに、蓮は複数人いるのか。そうだったら、勇一は前に私が会った蓮について、何か知っているかもしれない。
しかし、勇一は少し物覚えが悪いから、純粋に人違いという可能性もある。彼にはいろいろ、問いただす必要がありそうだ。
そうこうしていると、ドアが開いてラーディンが息を切らしながら入って来た。
「勇一さん!待ってくださいって言いましたよね!」
「お、ラーディン。悪い、待ちきれなくて」
「全く、人の話を聞いてくださいよ」
ラーディンは真面目で面倒見がいいから、ここまで勇一に振り回されてきた様子が伺える。勇二と違い、ラーディンなら話が通じそうだ。
「蓮さん、お久しぶりです!ラーディンです!体調はどうですか?」
「ま、まあ、ぼちぼち」
「そうですか。えーと、紹介が遅れてすいません。こちらは、勇一さん。今回、街に来た軍の人の一人なのですが、僕たちを救ってくれた人でもあります。街に入った跡、バイタルバグに追われていたのですが助けてくれて、病院に連れて行ってもくれました。それに、医療費とか全て払って頂いてます」
「それは、ありがとうございます」
「俺、趣味とかないから、金はあってもそんな使わないし、気にするな」
「ラーディン、勇一さんから何か聞いてる?」
「ああ、そういえば、貴方を弟子にしたいそうですよ。知り合いが何とか」
「知り合い?」
「そうだ。昔、お前によく似た知り合いがいたんだよ」
そして、勇一は幼い頃の知り合いの蓮という少女の話をしてくれた。
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