第6話 Free Your Soul - F
森に向かう途中で、驚くべきものを見た。エーテルノイドの森に向かう3台の車があったのだ。
2台は軽トラックの荷台には重機関銃が置いてあり、今もバイタルバグを撃っている。1台は配達用トラックで運転手には銃口が付きつけられていた。モニターをズームして運転席を見ると、そこには色白の黒髪の青年が見えた。彼は、CELESTIAL NEXUSのメインメンバーの一人、ラーディンだ。
そういえば、彼もこの時期、この町にいたんだった。両親が家族経営の引っ越し会社を経営していて、16歳のラーディンはこの頃、家の手伝いをしていたはずだ。
目の前に居る運転手が本当にラーディンだったら、このまま放置していても無事だろう。しかし、ラーディンはアニメでは、人を殺したことをトラウマとして抱え続けている。そして、過剰なほどに人を守ろうとするのだ。そのトラウマのきっかけが、2年前、つまりプロローグ時点で、トラック運転中にチンピラに絡まれて、事故を起こし自分以外死んだことだった。
つまり、この後、ラーディンはこのトラックで事故を起こし、彼だけが生き残る。未来に死にたがりになるなら、その原因を断つことも、死亡フラグを回避することに繋がるはずだ。ここは、行動しないわけにはいかないだろう。
道路を離れて先回りして、トラックの前に立つ。そして、外部スピーカーから、声をかける。
「こちら、アクシス・ソブリン軍第3小隊所属、蔡。そこの車、止まるんだ」
しかし、車は止まる様子はない。それどころか、こちらに重機関銃を向けて撃って来た。避けようにも避けきれず、全弾受ける。
しかし、弾は貫通することは無く、それどころか機体は撃たれた個所からどんどん修復されていく。この機体、生きているのか。
色々確認したいが、このまま次の弾を撃たれるか、突撃されては困るので、こちらも静観はできない。
「止まれ。止まらないならば、撃つぞ」
威嚇として、車の手前に銃を撃つ。残弾はまだまだ余裕があるから、これくらい、大丈夫だろう。
すると、威嚇が通用したのか、車は停止し、中から人がわらわらと降りて、街の方に逃げていくのが見えた。
確か、あれは街のチンピラ集団「シンギュラリティ・ブラッド」じゃなかったか。プロローグで、煌に対してカツアゲを行おうとしたというだけの設定しかないはずだが、何故、ここに?逃げたならまあいいとするか。
トラックの運転席に目をやると、ラーディンの姿が見えた。しかし、様子がおかしい。目を閉じて、動かなくなっている。外傷は見えないが、万が一のことがある。
辺りにいたバイタルバグを全て撃ち落としてから、7号機を横にして、コックピットから降りた。
トラックの運転席に駆け付け、ドアを開けて、ラーディンの状態を見る。息はしている様だ。冷や汗をかいているが、外傷はない。恐らく、長時間座ったままの姿勢で恐怖に晒されて、おまけに、さっきの私の行動がきっかけで失神したのだろう。
すぐに瞼が動いて目が開いた。
「き、貴方は……?」
「私は蓮。あの機体のパイロット。君は?」
「俺は、ラーディンです。あの、助けてくれてありがとうございます」
「まあ、そこはついでだから。もう、街に帰れる?」
「ええ、何とか……。待って、今すぐ、ここから離れて!」
「え?」
「いいから!」
ラーディンは私を押しながら、トラックから離れる。
「走って!」
「いきなり何!?」
ラーディンに言われるがまま、トラックから離れるように走っていると、トラックの荷台が膨らみ、中から青く透明な触手が現れたのが見えた。
「あれは!?」
「シンバイオティックラッチャーって、あいつらが言ってました!寄生型のエーテルノイドだって!」
「寄生型のエーテルノイド!?本当!?」
「知らないですよ!だけど、あれに取り付かれたら、死んじゃうんだ!」
触手がトラックの荷台に空けた穴から飛び出してくる。大きさは人型程度で、見た目はまさにスライムだ。それが、粘菌のように地面を這ってこちらに向かってくる。
「こっちに来る!」
「とにかく走って!っ!」
走っていると、ラーディンが枯れ木の根に足を引っかけたようで、転んだ。このままだと、立ち上がる前に、寄生型が追い付て、ラーディンは死んでしまう。彼を助けるために、ここでできることはなんだ。
私が干渉したせいで、このままだとラーディンは死んでしまう。そうだ、エーテルノイドは核を持っていて、潰せば死ぬ。これは寄生型エーテルノイドとは言え、共通のはずだ。寄生型に触れるリスクはあるが、これしか方法はもう無い。
迷っているうちに、寄生型は立ち上がろうとするラーディンに近づいてくる。まだ、こんなところで死にたくはない。でも、うまくいけば、取り付かれる前に核を壊して、私も生き残れるし、ラーディンも助けられる。
覚悟はできた。ならば、後はやるだけだ。
深呼吸をして、私はラーディンに向かって走る。
「ちょっと、蓮!まさか!」
そして、そのままシンバイオスライムに体当たりをした。触れた右肩から覆われる感覚がする。エーテルノイドには、必ず核がある。さっき、這ってくるのを見たとき、核の位置はわかっていた。後は、それを破壊すればいいだけだ。
右手を伸ばして、核に手を掛ける。そして、それを握りつぶす。硬さは卵程度だったから、私の握力でも何とか潰せた。核が潰れた途端、シンバイオなんたらは、粘性を失い、ただの水になった。
「無茶苦茶だよ。なんで、見ず知らずの俺の為に」
「君に死なれると困るから」
そうこう話していると、今度は羽音が聞こえて来た、バイタルバグだ。7号機に乗って戦うしかあるまい。
その時、右肩から右手にかけて痛みが走った。さっきのエーテルノイドの粘液を被った部分だ。酸の液体だったのだろうか。火傷に近い痛みがはしる。こんな状態では、まともに7号機は操縦できない。
それより、化学火傷なら、ここだと洗い流せる場所は無いし、早く病院に行った方がいい。
7号機の隣に目を向けると、軽トラックが見えた。
「ラーディン、運転は出来る?」
「うん」
「じゃあ、軽トラックで逃げるよ」
「え!?あの機体はどうするの?」
「ちょっと、しくじったみたいで」
ラーディンに腫れて赤くなっている右手を見せる。
「早く病院に行かないと!」
「そうだね」
万が一に備え、私は二台の重機関銃の所に乗り、ラーディンの運転で街の病院に向かう。機能しているといいが。
この重機関銃は、前に訓練で習ったものに似ているから、使えないことも無い。右手が不自由だが、いざとなればやるしかない。
ラーディンが全速力で車を走らせたおかげか、バイタルバグがこちらを襲ってくることは無かった。その点に関しては運が良かった。
「町に入るよ」
「……うん」
痛みが強くなってきて腕が動かなくなったし、頭がぼんやりしてきた。熱が上がっているのだろう。意識が遠のいてくる。
見知らぬ相手が目の前に居てこんな状態だったら、どうなっていることか。アニメ知識のお陰で、ラーディンを知っているから、彼がまじめでいい奴と知っているからよかったが。
駄目だ、意識が保てない。まさか、あのエーテルノイド、寄生型と言っていたが、寄生されたのか。核を破壊したはずだけど。もう、考えようとしても、思考がもうまとまらない。
荷台で気持ちのいい風に吹かれながら、そのまま私は意識を失った。
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