第4話 Free Your Soul - D
考え込んでいると、煌の母親に声を掛けられた。
「貴方、名前は?」
「蓮です」
「そう、蓮ちゃんね。今から、息子の所に行ってから避難するのだけど、いい?」
「......はい」
「お父さんとお母さんに連絡は?」
「両親はもういないので、大丈夫です」
「......そう。それで、どうして監視砦に?エーテルノイドの森は危ないのよ」
「……」
理由を後で考えようと思っていて、何も決めていなかったことを思い出した。根掘り葉掘り聞かれたら、色々と不味そうだ。何か、いい設定はないか。
黙って考えていたが、煌の母親からそれ以上、何か聞かれることは無かった。
小さい通りに入って、車は3階建ての古びたアパートの前で止まった。煌の母親は車から降りて、アパートの2階に向かう。
街への大規模侵攻は煌の両親によって引き起こされた。でも、だからといって、煌の両親が死んでいいと言う理由ではない。二人にだって、何か事情があったはずだ。もう、父親を助けることはできない。だけど、彼の母親なら助けられるかもしれない。
道を変えれば、もしかしたら、運命を変えられるかもしれない。それくらいだったら、私にもできるはずだ。
避難アラームがけたたましく鳴り響き、辺りが騒然としだす。アパートから、二人が出てきて、車に乗り込む。
「お母さん!どこに逃げるの!」
「兎に角、近くのシェルターに向かうわよ」
「お母さん、この子は!?」
「蓮ちゃんよ。途中で会ったの。一緒に逃げるわよ」
車が発進し、近くのシェルターがある場所に向かう。車が発進して、襲われるのは、二つ目の交差点だから、時間はまだある。エーテルノイドがこっちに向かってこないか窓の外を見張る。
まだ、エーテルノイドは見えないが、もうじき二つ目の交差点だ。
「お母さん、エーテルノイドだ!」
煌が何かを見つけたようで、指をさしている。指先の方を向くと、ビルを曲がってくる大きなクワガタの腹が見えた。そして、それはまっすぐこちらに向かっている。まさか、間に合わなかったのか。
「右に!」
「わかってるわよ!」
バイタルバグの突撃を回避する為に、車が急転回する。もはや、祈るしか私にはできない。目の前に大きな影が被さり、衝撃が走る。赤い液体が飛んできて視界を塞ぐ。そんな、まさか。顔を拭って見えたのは、バイタルバグの青黒い表皮の一部と、血の跡だった。
私が監視塔で煌の母親と会ったことで、車がバイタルバグと衝突する時間が少しずれてしまったんだ。私が関わったことで物語が少し変わったはずなのに、二人が死ぬ未来は回避できないのか。
煌は、隣で固まっていた。このままここにいては危険なので、直ぐに煌を車から引っ張り出して、シェルターがあるはずの方向に向かう。
「母さん……母さん……どうして、どうして母さんが……」
悲痛な煌のつぶやきが聞こえた。私だって、まだ受け止めきれてない。だが、煌を死なせるわけにはいかないので、煌の手を引っ張っていく。煌の手に力はなく、私に引っ張られるがまま歩いてきた。
私のせいで、煌の両親は死んでしまった。でも、私が居なくても、二人は死んでしまう。これがもしも、運命だとするなら、あと4年で私も煌も死ぬと言うのか。この町の人々の大半は死ぬと言うのか。
私が無力だから、こうなったんだ。もっと、力を付けて、物語の根幹を変える位に強くならないと、きっと、仲良くなった人がどんどん死ぬ。アニメ通りに死ぬことが運命なのか。何も残せずに死ぬのか。そんな最悪な最期は、嫌だ。
死ぬことが絶対なら、そんな運命ぶっ壊してやる。
絶対、私にでもできることがあるはずだ。そうでなければ、この記憶は何のためにあるんだ。
ふと、目の前に見知った顔を見つけた。あれは、あの藍色の髪の少女は。
「蓮?」
「……」
少女は黙ってなずく。やっぱり、あれは16歳の蓮だ。
「待って、蓮!聞きたいことが!」
「……」
蓮は黙ってビルの隣を指さした。そこにはエーテルノイドの木が生えていて、中に何か黒いものが見えた。エーテルノイドの木の色が青ではなく、赤く輝いている。あれは、一体、何なのだ。
よく目を凝らすとボディに走るあの赤と白の線、黒い尾のような電源ケーブルから、XAAG2-007だと分かる。まさか、私の異世界転生ボーナスが、あれなのか。でも、あれがあれば、私でもバイタルバグと戦えるかもしれない。
「蓮、どうしてあれが!」
蓮に呼びかけたが、いつの間にか彼女はいなくなっていた。彼女には、色々と聞きたいことがあったが、今はまだその時では無いようだ。一先ず、赤いエーテルノイドの林を調べるより、煌をシェルターに連れていくことが先決だ。
道路の脇に、シェルターが見えた。分厚い扉が開いていて、壮年の男性が中に入れと呼びかけている。
「君、先にシェルターに行ってて」
「……君は?」
「私はまだ、やることがあるから。ほら、早く行かないと、閉まっちゃうよ!」
無理やり、煌の背中を押し出して、シェルターに歩かせた。それを見て、男性が煌に声をかけて、近づいてくる。ここに居たら、私も連れていかれるし、それは困るので離れた。
「ごめん」
煌の両親の事は、もう取り返せない。これ以上、誰かを喪うことが無いように、行くしかない。死ぬ未来を変えるために、私ができることをやるんだ。手が届くなら、掴み取るしかない。
煌がシェルターに入るのを見届けるなり、7号機の待つ林へ走って向かった。
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