第3話 Free Your Soul - C
「誰だ!」
もう死ぬかもしれない。二度目の人生は一日で終わるようだ。
すぐさま、両手を挙げて、階段を上り切る。
黒ずくめの二人は、幼い子供がこんなところに居て驚いたようで、一瞬固まる。この隙に攻撃できそうだが、生憎、そんな戦闘力は無いので、黙って固唾を飲む。
「なんで子供がこんなところに……」
「……ったく、どうする?」
「でも、まだ子供よ」
黒ずくめの二人の内の背の低い方が覆面を外した。そこに見えたのは、煌の母親の姿だった。何故、煌の母親がここに?煌は、今、引っ越しの準備中のはずだ。CELESTIAL NEXUSだと、両親は職場に挨拶に行ってくると言っていたが。
まさか、煌がここに引っ越してきた目的は、両親の仕事が、意図的にエーテルノイドの大規模侵攻を起こす事だったからとかか。煌が前にいた国には、隣国のエーテルノイド・ドメイン共和国だし、ここアクシス・ソブリン王国とはエーテルノイド資源を巡って長年小競り合いが耐えない。それを考えると、納得ではある。
確かに、あんな重要な監視装置で機材トラブルが、早々起こるはずもない。あの大規模侵攻にはそんな裏設定があったのか。いや、納得している場合ではない。場合によっては主人公の両親に殺されるかもしれないんだ。
恐怖で呼吸が浅くなるが、意識を失ってる場合じゃないので、無理やり息を吸い込み、深呼吸をする。
「ここで見たことは絶対に言わないって約束できる?」
「う、うん……」
「こんな子供が言わないわけがないだろ。殺そう」
煌の父親と思われる方が、銃口を私に寄せて、引き金に指を掛ける。
もう、どうすることもできない。駄目だ、私は主人公には成れないんだ。さらば、私の異世界人生。
死ぬ間際に今の風景を目に焼き付けようと、監視用の正面の窓の方に目を向けた。すると、青白い巨大なクワガタムシの頭が見えた。エーテルノイドだ。
ぶつかると思った次の瞬間、窓がけたたましい音を立てて割れ、エーテルノイドは動かなくなった。すると、車が衝突したような大きな音と共に、建物が揺れ出した。数秒に一回のペースで揺れる。エーテルノイドの群れが、この建物に突撃しているのか。
「こんな時に、バイタルバグの襲来大規模侵攻!?今すぐ、逃げましょう」
「おい、この子供はどうする?」
「……私が責任もって連れていく」
「置いていけ」
「だって、まだ煌と同じくらいの子よ!」
「国の為だ。多少の犠牲位、仕方ないだろ」
バイタルバグとは、このカブトムシのことのようだ。そして、シナリオ通り、大規模侵攻は始まってしまったようだ。煌の両親が言い争っている間に、バイタルバグは再び動き出し、暴れ始めた。二人はすぐに後ろに下がりドアを閉めた。
「ここは2人で戦いましょう」
「いや、ここは俺に任せておけ。お前はその子と煌を連れて逃げろ!」
「わかったわ......どうか、無事で」
「俺はそう簡単には死なないさ」
煌の母親は私の手を引いて駆けだした。急展開に追いつけないのは私だけだろうか。砦の傍に止めてあった車に私を乗せて、母親は走り出した。
「い、今の方は……」
「……あの人は、きっと何とかするわ」
CELESTIAL NEXUSのプロローグの展開を思い出す。
まず、煌が引っ越して来て、職場に挨拶に行く両親を見送って、日常とか準備が退屈だとか言っていたら、街で警報が鳴る。そして、母親だけ帰ってきて、車に乗って逃げようとするが、エーテルノイド、バイタルバグの攻撃を受けて、車は潰される。
母親が、最後に逃げてと言って、煌は逃げて、その先で地下シェルターがあり、蓮と出会うはずだ。
今のままだと、煌の父親はあそこで死んでしまう。あと、母親もすぐに死んでしまう。何か、この未来を変える手立てはないか。せめて、私に7号機があればいいのに。そうすれば、こんな巨大虫を撃ち落として、煌の母親も、父親も、名も無き町の住人達も助けられるのに。
やるせなさが心を占めるだけだった。
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