第2話 Free Your Soul - B

 デジタル時計を見ると、6月24日午前8時30分とある。


 CELESTIAL NEXUSのプロローグは、煌が12歳の時、6月24日にここニューロシティに引っ越してくるところから始まる。煌は引っ越した初日にエーテルノイドの大規模侵攻に遭い、両親を失ってしまう。


 そんな中、蓮と出会い、二人はエーテルノイドから逃げるが、その途中で、蓮はエーテルノイドの攻撃を受けて重傷を負ってしまう。街が崩壊する中、一人無事に生き延びた煌は自分の無力さを嘆くのだ。


 この経験のせいで、煌は自己犠牲的な人間になってしまい、エンディングで死ぬ。


 まず、私が死ぬ未来を変えるには、この大規模侵攻を何とかしなければならない。


 突然の転生だったから、転生ボーナスがあるように思えないし、CELESTIAL NEXUSは未来の地球が舞台の設定だから知識でチートも不可能だ。蓮の知識を引き継いでいる様子も無いし、12歳の少女にできることは少ない。


 頭を抱えつつ、ベッドに座る。取り敢えず、現実か確認するべく、頬をつねってみた。痛い。現実だ。そうしよう。


 それで、未来を変えるには、第一にエーテルノイドの大規模侵攻を防ぎたい。エーテルノイドの大規模侵攻が発生した原因は、エーテルノイドの森の監視装置が故障していたことだったはず。


 こういう時こそ、設定資料集の内容を思い出そう。エーテルノイドの森は、この窓からでも見える。ここから北に見える高い壁に囲まれた場所がエーテルノイドの森だろう。


 エーテルノイドは巨大だし、コストカット、維持のしやすさの関係上、エーテルノイドの森の壁は人が通れる程度の隙間がある。人は誰もエーテルノイドに襲われる危険性の高いエーテルノイドの森には入らないし、入って死んでしまっても自己責任なので、機能的には問題ない。


 大規模侵攻を防ぐには、エーテルノイドの森に入って監視装置を修理する、或いは群れの襲来を伝えればよさそうだ。森に入るとエーテルノイドと出会って、フラグ以前に死ぬし、森の監視砦に行く方を優先しよう。そして、森の状態を見せて、監視砦の人に相談してみよう。理由はその場で考えるとするか。


 確か、この頃の蓮は家族と生き別れていて、住み込みで働きながら酒場で働いている。だから、昼間は全員寝ているから、無断で外出しても大丈夫だろう。エーテルノイドの森に、支度を整えてから向かうとするか。


 適当な服に着替えて、顔を洗って、髪を軽く一つに結んでから部屋を出た。酒場は3階建てのようで、屋根裏部屋は外階段から入れるみたいだった。錆びついた階段を恐る恐る降りていき、裏通りから大通りに出る。


 メインストリートは、香港の街並みのように古びた高い建物が目立ち看板が無数にあった。看板に書かれている言語は、勿論、異世界言語。アクシス・ソブリン語と言って、梵字みたいな言語だ。蓮に転生した関係か、私には全部、日本語のように読めるが、知らない会社ばかりだ。


 香港と違って、街は砂煙が舞っていて、寂れた感じがすごいする。乗り物は古びた車か、バイクばかりで、路面電車も走っている。


 少し歩くと道路標識が見えた。ここは、ニューロシティというそう。そして、ここから5km歩いたら、エーテルノイドの森に行けるみたいだ。案外近い。看板に従って大通りを右に曲がった。


 メインストリートを抜けると、砂漠地帯にアスファルトで舗装された道路が一本、巨大な壁に続いているだけの景色となる。まだ朝早くだし、誰もエーテルノイドの森に向かうことは無いのか、通り過ぎる車は無い。


 歩いて30分で、エーテルノイドの森にたどり着いた。日も登ってきて、暑くなってきたが、森の近くは涼しかった。壁の外を回って監視砦に向かう。


 壁の隙間から、ちょくちょくエーテルノイドの森が見えた。


 エーテルノイドの森は、森という名前だが森らしくは無い。シダ植物のような木々しかなく、どれも血管のような管を持っていてそこが青白く発光している。それに、木々と同じく青白く発光していて体長10mを越える虫が飛んでいたり、地面を這っていたりしている。まさに、異形の森だ。見る分には綺麗だが、立ち入ってみたいとは到底思えない。


 少し歩いて、コンクリート造りののっぺりとした建物の前に来た。監視砦だ。24時間、森を監視している為、明かりが灯っているはずだが何故か窓が暗い。それに、監視塔の鍵は破壊されていて、嫌な予感がする。


 深呼吸をし、ドアを開けて中に入る。1階に人の気配はない。監視室があるのは2階だ。階段から見上げると明かりがついていた。話し声も微かに聞こえてくる。そこにいるのは、テロリストかもしれないし、エーテルノイドかもしれない。


 しかし、ここで引き返しては、何もしないことと同然だ。死ぬ未来を変えるには、ここで引き下がってはいられない。覚悟を決めるときだ。


 階段を上り、監視室の前まで行く。監視室のドアは既に破壊されていて、監視室の中には人が二人いるのが見えた。黒ずくめの服だが、自動小銃を持っている。地面には血が散乱していることから、もう監視員は殺されたとみるべきだろう。


 緊張が走る。いくら、多くの死体を見てきたとはいえ、自分の死が迫ってきて、動揺しないわけがない。確定事項出ないからこそ、より一層、緊張感が高まる。


 心臓が張り裂けんばかりに早く鼓動して、引き返せと本能が叫ぶ。だが、もう手遅れなようだ。


 目の前の黒ずくめの二人は安全装置を外して、こちらに銃口を向けた。

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