転生機甲譚グリムムーン ~異世界転生したらロボットアニメのヒロインだったので、生き残るために死亡フラグを回避していく所存です~

雨中若菜

Episode1:Free Your Soul

第1話 Free Your Soul - A

 第3次世界大戦が勃発して、20歳だった私は、工学部だし、ロボットが好きだし、国の為に頑張りたかったので、4足歩行戦車みたいな見た目の巨大兵器XAAG2-007のパイロットに志願した。結果、現在、機体は大破し、爆発まで秒読みの段階だ。


 戦場で戦って生き延びるだけの運と技術が、私には無かったようだ。ロボットアニメの主人公みたいに、うまくいかないものだと実感する。


 機体が爆発する直前、味方の通信が聞こえた。


「ダッシュ!」

「ティヤ!」


 友人のダッシュの乗った機体が、自由落下する小型飛空艇を受け止めるのが見えた。彼が最愛の人と再会できたなら、私の死も、無駄ではなかったのかもしれない。あの二人に、幸せが訪れますように。


 やはり、モブは主人公の為に犠牲になるしかないのか。


 死ぬ間際だと言うのに、恐怖心は無く、唯々虚しさだけだった。家族は皆、月落しで死んじゃったし、この世に未練は無いが、もう少し充実した一生を送りたかった。


 人生最後の光景は、ただ、16インチのモニターに映る青く光る月の姿と、ダッシュ達の抱き合う姿だった。何見せつけているんだか。


 大きな爆発音とともに、視界は真っ白になって、次の瞬間には何も見えなくなった。痛みは無かったから、一瞬で死ねたらしい。人生で最初で最後の幸運かもしれない。或いは、神の慈悲か。


 しかし、死んだあとは、こんなにも意識がはっきりしているとは。


 あまり、信心深くないが、死んだあとは死後の世界があると楽しいなと思っていたが、どうやら予想は外れたようで、答えは何も無いようだ。ここで永遠に過ごすのかと思うと、悲しい気持ちになる。


 しかし、イメージと違って、浮遊感は無く、確かに体が横になっていて、目を閉じている感覚がする。試しに、目を開けてみた。


 太陽の光が古びた窓からベッドに差し込んでいて、むき出しのコンクリートとトタン屋根を照らしているのが見えた。かび臭いベッドから起き上がると、錆びた金属製の柱と机代わりと思われるドラム缶があった。


 ベッドから出て大きなくすんだ鏡の前に行く。そこを覗くと、見覚えのある小さな女の子の姿があった。


 藍色の綺麗な長髪に紫色の瞳、顔立ちはかなり整っているがまだ幼さが残っている。身長は少々、低めで、栄養が足りてないのかやせ細った体。声を出してみると、親の声よりも聴いた綺麗な透き通るような美しい声。その瞬間、私は全てを理解した。


 私はどうやら、有名ロボットアニメCELESTIAL NEXUSの世界のメインヒロイン、れんに転生したのだ。万年モブだと思っていたが、人生、不思議なことが起きる物だ。


 プロローグの街にいるし、この見た目ということは、今は、プロローグ編で、蓮が12歳の時だろう。


 窓から見える町の様子からしても、CELESTIAL NEXUSの世界に転生したことはほぼ確実だろう。


 CELESTIAL NEXUSは、私が日本で大学生をしていた頃、夜中に放送されていた少々鬱展開なロボットアニメである。


 主人公はこうという少年で、両親を失った後アクシス・ソブリン共和国軍の対エーテルノイド特殊部隊テクストライクスのメンバーになる。エーテルノイドというのは、太古の人類が開発した生物兵器で、制御を失い、人類の存亡を脅かす存在だ。


 CELESTIAL NEXUSでは、煌たちテクストライクスのメンバーとエーテルノイドとの戦いが描かれている。


 この作品のあまり評価が高くない点として、バッドエンドなことがある。まず、テクストライクスのメンバーは最終決戦までに全滅するし、煌はコアエーテルノイドを持って宇宙に飛び立ち、そのまま爆散して死ぬ。


 そして、ヒロインはエーテルノイドで儲けていた政府軍とテクストライクスの戦いに巻き込まれて死ぬ。しかも、キャラ一人一人の殺し方が無造作で、突然打たれたり、成すすべなくエーテルノイドに食べられたりと、一方的に一瞬で死ぬことが多い。


 キャラデザ、機体デザイン、サントラ、声優、作画、全てにおいて問題は無く、OPとEDが神作品と呼ばれていたのに、ストーリーが悪かったとして評価が二分した作品だ。


 蓮に転生したと言うことは、物語の最終回である16歳の冬に、私は再び死んでしまうことになる。これが現実だとすると、今の私に残された時間はあと4年。それまでに、運命を変えなければ私は、死ぬ。


 ぼんやりここで過ごしているわけにはいかない。悪役令嬢に転生した主人公たちのように、私も死亡フラグを全力で回避していく必要がありそうだ。もう、死ぬのはうんざりだから。

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