第10話 扉の向こうへ

 外は怖かった。特に男の人が怖い。

 いやそれだけではない、全ての人の目が怖かった。


 それでもこの扉から外へ無ければ始まらない。

 何も変わらない。


 意を決して玄関の前に立つと、動悸で眩暈がしていた。

 こわばり汗ばんでいる私の手を掴んで支えていてくれていた周が「俺が傍に居るから」と言ってくれる。

 私は深呼吸をしドアノブに手をかけ、勢いよく扉を開けた。


 ◇

 目に飛び込んできた外は、いつもと同じ風景だった。何も変わっていない。


 でも何故か自分の中では全く違う世界になっていた。

 人が全て恐怖の対象に見えてくる。男性はもとより、女性もだ。マンションの廊下で人の歩く足音が聞こえた瞬間、そんなことはないのに何か自分の陰口を言われているような錯覚に襲われてしゃがみ込んでしまった。


「箏羽……今日はここまでにしよう」

 周が優しく背中を擦ってくれる。動悸が少しずつ落ち着く感覚。


「ううん、大丈夫。久しぶりで動揺しちゃってるのかも」

 私は周に心配させたくないから、できるだけ笑顔で答えた。


 しかし、周の不安そうな表情は続いていた。

「……もう強がらなくていいから」

 しゃがみ込み、私と同じ目線で周は私を優しく包み込むように抱きしめる。

 周が優しくて温かくて、対称的自分はなにもできない不甲斐なさも両方押し寄せてくる。

 私はたまらなくなってまた泣き出してしまった。


 怖いのだ。怖くてたまらないのだ。

 そんな私を何も言わず周は抱きしめてくれる。まるで世界から私を隠すかのように。


 私はこの腕の中で一生生きるわけにはいかない。それでは何も解決しない。周を開放するという目標の前で、私が周にしがみついている自分が嫌だった。

 私は泣きながら、周に「ごめんね、ごめんね」と無意識で謝っていた。


 彼は寂しそうな顔をすると「もうそんなこと言うな」と、軽く私の頬を両手で挟み込むように叩く。少しも痛くはなかったが、私はハッと我に返った。


 改めて涙を拭い、周を見る。周は優しい眼差しで私を見ていた。

「俺が傍に居るから、もう強がらなくていい」

 再度周が私にそう告げる。


 私には目標があったが、それでもその言葉は温かくて心の氷が解けていく感覚を感じていた。

 無意識に私は「ありがとう」と周の肩にもたれ掛かり静かに目を閉じて、その存在を確かめていた。


 外は怖かった。特に男の人が怖い。

 いやそれだけではない、全ての人の目が怖かった。


 それでもこの扉から外へ無ければ始まらない。

 何も変わらない。


 意を決して玄関の前に立つと、動悸で眩暈がしていた。

 こわばり汗ばんでいる私の手を掴んで支えていてくれていた周が「俺が傍に居るから」と言ってくれる。

 私は深呼吸をしドアノブに手をかけ、勢いよく扉を開けた。


 ◇

 目に飛び込んできた外は、いつもと同じ風景だった。何も変わっていない。


 でも何故か自分の中では全く違う世界になっていた。

 人が全て恐怖の対象に見えてくる。男性はもとより、女性もだ。マンションの廊下で人の歩く足音が聞こえた瞬間、そんなことはないのに何か自分の陰口を言われているような錯覚に襲われてしゃがみ込んでしまった。


「箏羽……今日はここまでにしよう」

 周が優しく背中を擦ってくれる。動悸が少しずつ落ち着く感覚。


「ううん、大丈夫。久しぶりで動揺しちゃってるのかも」

 私は周に心配させたくないから、できるだけ笑顔で答えた。


 しかし、周の不安そうな表情は続いていた。

「……もう強がらなくていいから」

 しゃがみ込み、私と同じ目線で周は私を優しく包み込むように抱きしめる。

 周が優しくて温かくて、対称的自分はなにもできない不甲斐なさも両方押し寄せてくる。

 私はたまらなくなってまた泣き出してしまった。


 怖いのだ。怖くてたまらないのだ。

 そんな私を何も言わず周は抱きしめてくれる。まるで世界から私を隠すかのように。


 私はこの腕の中で一生生きるわけにはいかない。それでは何も解決しない。周を開放するという目標の前で、私が周にしがみついている自分が嫌だった。

 私は泣きながら、周に「ごめんね、ごめんね」と無意識で謝っていた。


 彼は寂しそうな顔をすると「もうそんなこと言うな」と、軽く私の頬を両手で挟み込むように叩く。少しも痛くはなかったが、私はハッと我に返った。


 改めて涙を拭い、周を見る。周は優しい眼差しで私を見ていた。

「俺が傍に居るから、もう強がらなくていい」

 再度周が私にそう告げる。


 私には目標があったが、それでもその言葉は温かくて心の氷が解けていく感覚を感じていた。

 無意識に私は「ありがとう」と周の肩にもたれ掛かり静かに目を閉じて、その存在を確かめていた。


※以降更新を週二回程度とします。

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