第9話 決断

 1週間が経過して……私は少しずつリハビリをしなければと思うことができた。このままでは学校へ行くことができない。


 それよりも、実は私は部屋から出るのかトイレの時だけだった。

 自分の家なのに、私は自室以外の空間が怖かったのだ。

 特にリビングは足を向けてもいない。

 周がリビングを片付けてくれたらしいのは知っていた。そして周は自室から出ない私に何も言わなかった。


 カラダを拭くのも、周がお湯とタオルを用意してくれる。

 最初の方は、私の意識もぼんやりしていたこともあり、気が付いたら背中を周が拭いてくれている事実に気付き衝撃を受けたぐらいだった。


「筝羽一人じゃ大変だから手伝っただけだよ」

 そう爽やかに告げるが、私は着替えた事実も曖昧で『全部見られた』衝動の方が大きかったのを覚えている。


 恨めしそうに周を見るが、全く気にしていない様子だった。

 私の身体には何の興味も無いのが読み取れる。私って女としてさえ見られていないのね……と寂しくなったが、元々犬猿の仲だったのだ、今一緒にいてこうやって普通に接することができているだけでも奇跡である。


 周の優しさがとても心地よくて、嬉しくて……このままで居たい自分がいる。

 それ以上に、周の幸せを祈る自分もいる。


『リハビリをする』この宣言は怖かった。

 それでもこのまま一生過ごすわけにはいかない。


「周、私少しずつ外へ出ようと思う」

 夕食を作り持ってきた周にそう伝えた。彼はびっくりした表情で私を見ている。

 動揺しているのか、運ばれてきた食器がカタカタっと音を立てていた。


「箏羽……大丈夫なのか」

「うん、少しずつ前を向いていかなきゃ」

 それは私の決意でもあったが、『いつか私に付き合ってくれている周を開放してあげないとダメだ』という思いもある。


 周のことは好きで、こんな境遇になって初めて『好きな人を過ごす』という願いが叶っている。それでもこれは『周の本心ではない』と心が叫んでいたからだ。


 ──周を開放する。それが私の目標となっていた。



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