第8話 周の中に映る私

 それから重湯などの流動食が、少しずつ喉を通るようになった。

 食事が美味しいとは感じない。だけど、周が見せる安堵の表情が嬉しくて少しずつ口にする。


「頑張ったな」

 周が嬉しそうな表情をして私の頭を撫でてくれた。ゲンキンだな、と思うが今まで犬猿の仲だったのだ。周の変化は嬉しくて仕方ない。

 私は嬉しくなって『えへへ』と言いながら口元が緩んでいた。


 今まで周がこんな表情向けてくれたことは無かったし、スキンシップもない。


 それと共にどうしても心に罪悪感も生まれてしまう。

 周が悪いのではない。それなのに付きっ切りで看病してくれている姿に心が痛むのも確かだった。


「周……その、宿題とか!! 勉強とか忙しいんじゃないの!?」

 周と目が合って慌ててその場を取り繕うと、言葉を走らせる。

「別に宿題は既に終わらせてあるし、この程度苦ではないから大丈夫」

 咄嗟に言った言葉氏に対して、私はかなり焦っていた。また嫌味を言われるのかと身構えてしまう自分がいた。


 だけど、私に向けられた笑顔はとても優しかった。


 聞きたい。

 何がそこまで周を動かしているのか。

 そんなに私に対して責任感からくるものだろうかと。


 でも、怖くて聞けない自分がいた。

 周は私の顔を覗き込む。そして心配そうに『どうした? どこか具合が悪いのか?』と声を掛けてくれる。


「周が……優しいから、なんか調子狂う」

 俯いたままついつい本音を漏らしてしまって、慌てて顔を上げて首を横に振って全否定した。


 違う、嬉しいのだ。

 でもそれをどう伝えていいのか分からない。


「別に俺は何も変わってない」

 そう言いながら、額と額とかコツンッと当たり周が笑う。

 周の瞳の中に私がいる。今まで願っても得られなかった場所。


 今、その中に私がいる。


 私の心は虚無感ばかりだったが、少しずつ光が差してきた気がした。

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