第4話 〝ずっと一緒にいるから〟
「泣いている……の?」
私は全身の痛みに耐えながら、周の頬を撫でた。
私は今の状況よりも、周が自分の目の前で泣いている事実に困惑していた。
普段、弱音なんて見せない周が泣いている。
そんな周を愛おしいと思ってしまう自分がいた。
そして、徇に触れているうちに段々意識が鮮明になっていく。身体は思うように動かないが、脳はクリアに晴れていく。状況は分かるようになってきた。
荒らされている室内、割れているガラス……服は破れてほぼ何も纏っていないような状態の私。
「周……私……」
それ以上は怖かった。怖くて聞けなかった……『どうなったのか』認識を脳全体が拒絶しているようだった。拒絶していることで、なんとか私は自我を保っている。
只々身体が震え、湧いて出る恐怖に耐えることで精一杯だった。
周は無言だった。
そして静かに私を抱きかかえると、ベッドに寝かせてくれた。
その無言の優しさに、私はどうしようもなく涙が溢れて止まらない。
いつも嫌味や皮肉しか言わない周が、優しい。それが何を意味しているのか。
憐れんでいるのか──それがどういう結論なのかを察してしまう。
私の涙を拭いながら周は私の頭を優しく撫でてくれる。それは今までに見たことがない優しい周だった。
──……言葉は無かった。
私はそれで『私に何があったのか』を確定的なものとした。
きっとこんな状態で精神下では生きているのは不思議なのかもしれない。
本当なら死んでしまいたい衝動が私になかったといえば嘘になる。
拒絶した頭に沁み込む周の優しさが、自分を救ってくれていた。
周の優しさに私の心はこの状況下であっても少しずつ癒されていた。
ふっと『そうか、生きているだけでも儲けものなのか』そんなことを思うと、悲しくてやりきれなくてまた涙が流れる。
淡い期待をしていた大人の階段への経験は夢物語で、もう今後ありえなくなったものと化したのだろう。
なんだろう、大好きな周の優しい表情が私に向けられていることが、自分を冷静にさせてくれていたのかもしれない。
少しすると、周は表情を少し曇らせる。そして、静かにこう言った。
「俺がこの先ずっと傍にいてやる」
その言葉に私は目を見開いた。
あの私のことを小馬鹿にして、何かあると衝突していた周がそんなこと言うなんて……。
これが普段の告白なら、私は嬉しさ絶好調で舞い上がっていただろう。
でも、周の表情には影があった。
「俺しかこの事実は知らない。だから……一緒に背負ってやる」
これは『責任感からなのか』と悟ってしまった。
周が悪いのではない、これは事故で周は助けてくれたのだ。周は悪くない。
〝私の大好きな周が傍にいてくれる〟
――私は、その優しさに付け入ってしまった。
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